翌日、なんでも無い様なそぶりで朝の食卓に付く。
きょろりと辺りを窺うも緋色の色彩の持ち主は現れなかった。その事に深く安堵の息を吐く。
「どうかしたのか? ナタリア」
そんな自分に気付いてか、ルークが気遣わしげに尋ねてくる、彼と同じ顔が覗き込んで来るのを顔を上げてしまう事で避ける。……今はルークの顔を見て話す勇気が持てなかった。
昨晩、荒々しい様子で女を抱いていたアッシュ。
予想すらしていなかった裏切りに、昨日は眠る事が出来なかった。
「あ~!! アニスちゃんわかった!」
大げさに騒いだアニスがビシッと指をさしてくる、にんまりと笑う彼女にナタリアは困惑気に笑みを浮かべる。
まさか、昨日の事を?
「ナタリアさ~、アッシュが居なくてつまんないでしょ?」
も~ナタリアってば~!! と身体をくねらせて遊びだすアニスに曖昧に微笑んでみせる。どうやら仲間達はそれで納得している様だ。
少し、安心した。
流石に昨日の夜に何があったのか、そして今の自分の事を関連付けで話せる勇気がもてなかったからこそ、アニスの勘違いとその後の行動に救われた。
ナタリアが自分の思考に耽っている時。突然近くのテーブルから下卑た笑い声とはやしたてる声とがほぼ同時に響いた。
驚き、其方に眼を向けるとダアトの軍服に身を包んだ壮年の男性と胸の大きく開いたドレスを身に纏った娼婦。
「朝からっって! も~教団のイメージ最悪ジャン!!」
アニスが怒りを露わに椅子の上に荒々しく腰をおろす。咎めに行く気は無いようだ。
「彼、なんでこんな所に? 任務かしら?」
「任務かなんかでしょ! 新生ローレライ教団とか幅利かせてたし、その調査にでも出てきたんだよ! 挙句にこんな事。顔覚えておこう!」
教団員同士で進めていく会話についていけず、そして男の横の女にどうしても昨夜の情景を思い出し、嫌な気分になる。
「まあ、任務終了のめどが立って行っているなら、彼は厳重注意くらいで済まされるでしょうがね」
「へぇ、そりゃまたどうして?」
「任務の間や休暇の時に娼館に通う事に厳しい罰なんてしたら軍人の男はやる気なくしますよ~? 戦争中とかは特に陣地内に呼び込んだりしますから」
ジェイドとガイの話にルークは目を白黒させている。しかし、教団の制服を見てフッと瞳に影が差し込んだように見えた。
(ルーク?)
疑問に思ったが、何だか聞ける雰囲気ではなく。そのままルークは食事の途中で出て行ってしまった。
アッシュの事も気がかりではあったが、ルークの事も気になった。もしかしたら、気分が悪くなったのかも知れない。彼はまだそういった内容に縁が無い。
まだ7年しか生きていないのだから、仕方ないといえばそうだ。しかし、アッシュと同じ顔のルークとは長時間話すことは出来そうに無い。
そう思い悩んでいると、ガイが後を追ってくれていたのでひとまずは安心できた。
部屋に駆け込むと、後ろからついてきていたガイを追い返す。なんでもないと言ったが少し不審そうにしていた。
言える筈が無い、神託の盾の兵士を見て、嫌な想像に吐き気がしたとは。そんな考えは愛してくれる彼に失礼だと、泣きそうになって蹲る。
アッシュはこんな状況でもうまく対応できるのだろうか?
アッシュと思いあうようになってから、こんな風に見も知らぬ、かつてのアッシュの相手に嫉妬するようになった。ああいった手合いの店にはきっと通っていた事もあるのだろう。
もちろん、恋人同士と呼び合える仲になる前の彼の行動範囲にまで苦情は言えない。
分かっていても、どろどろとした嫉妬にさいなまれる。
(あっしゅ……)
愚かだと思われて嫌われてしまうのは怖い。