生まれたときにはもう、目も耳も聞こえていた。自我というものは確かに存在していた
ヴァンという男の会話と、被験者の会話も全てその時に記憶した。
屋敷に来た後は、身体が動くようになってからは貪欲に知識を取り込んでいった。書庫は調度いい場所でもあり、煩わしさから逃れる事にも最適だった。
身体を鍛え、本を読み、かつてのルークとは違うと囁く声に苛立ちはするが……身1つでは何も出来ない事も理解していたからこそ、17歳の預言の年に逃げ出す準備をしていた。
やすやすと死ぬつもりはない。
利用できるものは全て利用するつもりで、ルークはその日も書庫で本を読み進めていた。
預言の年まであと1年。
この鬱陶しい生活からも解放される。そう思えば自然と機嫌も上向きだった。
口ばかりの使用人も、復讐者も、親も。
無能ばかりが揃い踏みだ。
誰一人入れ替わりに気付かず、腹の中で一物持っていることにも気付かす綻びだらけの理想に酔う創造主も。
くっと唇が笑みを浮かべる。いずれは自分の他のレプリカでも焚きつけても面白そうだ。まあ、焚きつけて反乱が起きても知りもしないが。
ふっと視界が陰った。目線を上げると、窓のところに誰かいる。
使用人の誰かだろうか?庭師でもなければあんなところに立ちはしないが……ペールにしては背が高い気がして、ルークは席をたった。
今調度いいところだったのだ、知りたいと思っていたレプリカ理論の原書。要するにバルフォア博士の書いたものが手に入り、夢中で読んでいたのに。
窓際まで移動し、窓に手をかけ開け放つ。
人影は窓まで来る時に脇によっていっていたので、そちらに視線をやった瞬間。ルークの意識は闇へと落ちた。
目が覚めたときに、真っ先に気付いたのは見知らぬ天井と両手を拘束する冷たい手錠。
陰湿な部屋にはベットと小さいテーブルとトイレ。
牢獄のような作りの部屋に、息を飲む。
テーブルの横の椅子に誰か腰掛けていることにはすぐに気付いた。
誰何の言葉は出なかった。その人物は、よく見慣れた容姿をしている為にその必要はない。
「お……被験者?」
強張り、掠れた声に相手は嘲笑った事がわかる。
「ほう、レプリカだって事には気付いていたのか。なかなか使えるみたいだな」
立ち上がり、側まで歩み寄るとはっきりとその容姿が目に入る。
深紅の髪に黒いシャツとパンツ。教団の制服ではない姿。
ヴァンと共に教団に身を寄せていたのではないのだろうか?
「不思議そうだな。まあ、当然か」
安心しろ。てめえは一生俺のもんだ。