膨らんできた腹部に耳を押し付けていたアッシュの肩が緩やかな呼吸のリズムに合わせて揺れる。まだ胎動もまだなのに、来るたびにそうするのは真に子供の誕生を切望しているという事だろう。アッシュの名前ではなく他人の名前で送られる品々は目くらましという意味合いでのアッシュからの贈り物だ。
眠る彼を妨げないしながら、髪を撫でながらガイの子守唄を思い出しながら歌う。ガイの子守唄はホド由来のもので、少し節回しが違ったりとしていてルークの密かなお気に入りだ。
夢を見た。いつの間にか愛してしまった人を手に入れた日の夢。
愛しいと想い。叶わないと諦めていた。それでも側にいたいと思い、届かない事を受け入れるしかない現状が苦しくて堪まらい。視界の端に彼が映るだけでもよかった。愛しい気持ちは、それでは抑えることは出来なくても少しでも彼の笑顔を見ていたかった。
苦しい気持ちを抑え、愛しさが暴れださないように。
其の日はいつものように情報を交換し、宿の部屋に戻ったのだ。一息ついたときに控えめなノックの音が響き、警戒しながら開いた扉の前に別の宿に泊まったルークがシーブスマントを羽織って佇んでいた。
交わした会話の内容はよく覚えている。気遣い、案じてくれる心はむき出しの純粋さを、無垢で無邪気な幼子だった。傲慢な振る舞いはこの柔らかな本懐を守る砦だったんではないのだろうか?
それほど、稚けない心はあたたかく柔らかで。
痛みを堪えた顔だと、言い当てられた。痛いなら全て聞くと受け止めると、出来る事なら全て、アッシュの為に骨身を尽くすと。それは、居場所を奪った罪悪感からきたものでも其の言葉は甘い毒。
押さえ切れず思いのたけを伝えたら、戸惑いながらも受け入れてくれたのだ。
其の日はただ抱きしめあい眠った、ルークはガイから教えられた子守唄を口ずさんでいて、其の唄は節回しが特徴的で耳に残るものだった。
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覚醒する意識の中でルークの子守唄を聞く。ぼんやりとした視界にルークが映る。こみ上げる幸福感に無意識に手を伸ばす。愛しい頬に触れるだけで涙が溢れてくる。歌いながら頬に添えられた手に手を重ね頬を押し付けてくる。
其の姿がルークからルティの姿に変わっていく。
其の事を驚くほどすんなりと心の奥に落ちていく。
なんだ、ずっと一緒にいてくれたのかと。
理解した瞬間、素早く身を起す。頬を撫で、涙で歪む視界を凝らす。
「るーく……」
泣き笑い混じりの声にルークは同じ様な泣き笑いの表情で頷いた。