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昼の生暖かい風と違い、涼しさを増してきた風は夜の匂いを宿していた。
ああ、秋が近いんだな。
窓の外の月夜を眺めミクはぼんやり考え、息を一つ吐くと楽譜に目を戻した。
きぃ。小さな音を発しバスルームからルカが出てきた。
ちらりと一瞬、ミクの目が桜色を捉えたが、すぐに何事も無かったように楽譜に戻った。
キッチンでルカが水を飲む音。
小さく息を吐いたルカがこちらに近づいて来るのをミクは見なくてもわかった。
楽譜を辿るミクの目の端をすらりとした白い足が通りすぎる。
ふわっと柔らかい香りが残る。
ぽすっと背後のベットにルカが腰掛ける音。背に感じる強い視線。
それに気づかないふりでミクは楽譜を読む。もう一音も入らない頭に無理矢理に音を押しこむ。
ルカが髪を梳かす音、口ずさむ歌が小さく部屋を満たす。
つまらなそうな顔したルカが、それでも丁寧な手つきで髪を構う姿が目に浮かびミクは小さく微笑んだ。
余分な力が抜けて、頭がクリアになり、楽譜の音を拾い出す。
かたん。小さな音が響く。
サイドテーブルに櫛を置いたルカは自分に背を向け、楽譜を読むミクを呼ぶ。
「ミク」
はっきりと鮮明に柔らかなアルトが。
「…………」
ルカの声がミクは好きだ。歌声も好きだが、一番ミクが好きなのは彼女が自分を呼ぶ声。
「ミク」
心持ち強くもう一度ルカが名を呼ぶのをミクはくすぐったそうな笑みを浮かべて聴いていた。
「……ミク。……ミクちゃんってば! ……意地悪しないで」
焦れたように何度も名を呼んでいたルカの声が微かな湿り気を帯びる。
それにミクは仕方ないと息を吐き、楽譜を軽く整えると立ち上がった。
ベットに腰掛けるルカが嬉しそうに場所を空け、ミクを迎える。
ミクの起伏の乏しい細い身体に手を回すとルカは幸せそうに微笑んだ。
抱きつき頭を押し付けてくるルカの頭を撫でながらミクは横になる。
「明日は?」
「……十時にいつものスタジオ」
それならいつも通りの時間に起こせば間に合うなと考え、ミクは返事の代わりにルカの背を撫でる。
気持よさそうに目を閉じるルカ。
「ねぇ……何か歌って?」
「甘えんぼだな~」
困ったようにぼやきながらもミクはルカのリクエストに従い歌いだす。
微睡みだしたルカの身体をきちんとミクが抱き直してずれた掛布を掛けていた時。
ルカがぱちっと目を開けた。
「あ……起こしちゃった?」
「ううん。言い忘れたから。……おやすみ」
「……うん。おやすみ……ルカちゃん」
その言葉を最後にまた目を閉じたルカの口から程なく寝息が。
世間では女王様でツンツンな態度をとる彼女が自分だけに見せる一面。
甘えんぼで寂しがり屋で、一人で寝るのが嫌いで。
頼って甘えてくるルカがとても愛しくて、大切で……。
出来るなら……このままずっと、二人でいられますように。
ささやかな願い事を胸に宿したミクは寝入るルカの額に口付け目を閉じた。
後書き
えっと。一応はネギトロです。瀬川初のネギトロです。
ミクは想いに自覚してますが、ルカは無自覚で。
ただ、ルカが誰かを抱き枕にする話を書きたかっただけです。はい。
ぐだぐだですみません。
えっと。一応はネギトロです。瀬川初のネギトロです。
ミクは想いに自覚してますが、ルカは無自覚で。
ただ、ルカが誰かを抱き枕にする話を書きたかっただけです。はい。
ぐだぐだですみません。
by 瀬川 唯
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