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一面の闇の中を僅かな灯りで進むルークの足を止めたのは、土と岩からなる壁だった。
ルークが来た道は、ほぼ一本道——人が通れそうな道は無い。つまり外に続く道は壁の向こうにしか無い。
そして、ルークはもう一つの事実に気付いた。此処に至るまでに仲間達を見なかったことだ。
つまり、仲間達は、まだ崩れかけた洞窟の奥の何処かにとり残されているか、壁の向こう側に居る。
ざぁと冷たいモノがルークの背筋を駆け下りていく。とっさに引き返そうとしたルークは勢い良く誰かに激突した。
「ぐわぁ」
ルークはその激突した誰かにはじかれるように、バンザイするように地に倒れていく。
そのルークの手を無造作に掴み、立たせてくれた誰かにルークが何かを言う前に怒鳴られた。
「この、屑野郎!! お前はろくに前も見えないのか!!」
「……アッシュ?」
「第一、何で居るんだ?」
「それは……」
口籠もるルークを見据えて、アッシュは冷たく言い切った。
「まさか俺の跡を追って……とか言うなよ。レプリカ風情に心配される筋合いは無い」
アッシュは手元の灯りで出口が塞がれているのを確認し、何かを考えている。
その冷静な態度や、言葉にルークは傷付いた。そしてそれは直ぐによく分からない怒りに飲まれ、ルークの口を飛び出した。
「……そのまさかだよ。アッシュが向かったって聞いたからだよ!! 心配しちゃいけないのか!! ……レプリカだとかオリジナルだとか関係ないだろう!!」
そう叫び、アッシュの顔を睨むようにルークは見た。
どうせ何をしても自分は……。
ルークは悲しくなってきた。必死に償おうとしても、まだ……足りない。気持ちばかりが空回りしている。それでも、そのことを誰にも言えない。言える筈がない。これは、当然の報いなのだから。今、ルークは闇の中を、果てしない道を、一人でさまよっていることをルーク自身は気づいていない。
「おい、泣くな」
泣いてなんかいないアッシュは何を言っているんだろう。 ぼんやりとルークは考える。
突然切れたと思ったら、今度は泣き出した。
アッシュは眉間にシワを寄せ、溜息を洩らし、立ち尽くしたままのルークに近づき、普段より幾許か優しい手つきでルークの涙を拭う。
突然のアッシュの行動にルークは我に帰った。いささか乱暴だが、普段とは違う優しさを見せるアッシュの仕草に頬を伝う涙に初めてルークは気がついた。
気恥ずかしくなり逃げようとするルークの頭をアッシュは無造作に撫でる。その手の温もりに止まりかけた涙がまた零れる。アッシュの手はそれを許すかのように、優しく涙を拭い、頭を撫でる。
アッシュは何も言わない。だから、ルークはそれに甘えることにした。アッシュの服を掴み。思いっ切り声に出して泣いた……。
縋るように泣いていたルークが落ち着いたのを見て、アッシュはルークを引き剥がした。
「落ち着いたか?」
小さくルークが頷く。顔が赤いのはおそらく恥ずかしさからだろう。それに気付かぬふりでアッシュはルークの事を調べていた部下の報告を思い出した。
『ルークレプリカだって、苦労していると思いますけど?』
あの双子はそう言っていた。それをアッシュが認めなかっただけなのだろう。憎むべき対象としておくために。
「アッシュ、ごめん。迷惑かけた」
「別に、お前のためじゃ無い」
すっきりした顔でルークが礼を言うと、アッシュは意味不明なことを言い出した。意味がわからずルークが首を傾げてアッシュを見続けているとアッシュが口を開いた。
「泣いたままだと知れたら部下が切れるからな」
そう溜息を漏らすアッシュの説明にルークは複雑な何かを感じ取った。だから何も聞かずに話を変える。
「アッシュはやっぱり先生を追ってきたんだよな?」
「ああ、部下と一緒に」
部下と一緒に。その言葉はルークには意外だった。漆黒の翼と一緒でもなく、一人でもなく無く部下と一緒。
「信頼あるんだ」
アッシュが誰かと一緒という事実は喜ぶべきなのにどこかで喜びきれない自分を持て余しながら言ったルークの言葉に、アッシュは眉間のシワを増やし即答した。
「いや無い。ただ単に目的が同じなだけだ」
アッシュの頭に浮かぶのは彼らの後始末に走り回った教団時代の日々だった。
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