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TOA・ボーカロイド中心の二次創作です
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一日遅れたけどもバレンタイン話です。
しかも、『こいうた』設定のバレンタインです。
カイトのシスコンが増してきている気がする今日この頃……。

+ + + + + + + + + +

2月14日

 玄関で靴を履いている自分の背をじっと見ている妹のルカの視線に溺愛しているカイトが気付かないはずは無かった。
 靴を履き終えて振り返ったカイトはルカと目を合わせる。朝、自分が結った髪を崩さないように頭に優しく触れた。
 頭を撫でるカイトをじっと見上げてルカはぎゅっと猫のぬいぐるみを抱き締めた。
 そのまま何も言わずに自分の顔を見ている妹をカイトは思いっ切り抱き締めて語る。
 「っルカ! お兄ちゃん、行ってくるからね。……早く帰って来るからね……」
 感極まり肩を震わせてルカを抱き締めるカイトの頭をメイコは叩いた。
 間の抜けた声を出す息子の腕の中にいる娘を呼ぶと、ルカは素直に母親の元に戻ってくる。
 「ささっと行きなさい。遅刻するわよ?」
 「母さん!」
 ヒドイと言わんばかりの息子に呆れきった様子でメイコは息を吐き、頭を振る。
 「ちゃんとがくぽ君を連れて来るのよ? ……ルカが言いたいのはそれでしょ?」
 それぐらい分かってます。だから、そんなにはっきり言わないでください。……ルカもそんなに頷かなくても……。
 母の言葉に何度も頷く妹を見てカイトは虚しさとやりきれない思いにふてくされた。
 ルカは親友のがくぽを気に入っているのだ。家に遊びに来れば親友の側を離れない妹とまんざらでない様子で相手をしている親友をカイトはぽつんと見ているだけなのだ。
 せっかくバレンタインなのだ。今日くらいはお兄ちゃんって来てくれてもいいのに……。
 はあっと深く息を吐くカイトのズボンを掴み、ルカは軽く引っ張って兄の注意を引く。
 「……お兄ちゃん、早く帰ってきてね」
 「! ルカー! うん、うん!…………」
 「ほらぁ! 本当に遅刻するわよ! いい加減にしなさい!」
 ルカの言葉に感極まったカイトがルカに抱きつこうとするのを阻止してメイコはカイトを玄関の外に追い出して扉を閉めた。
 はあっとカイトよりも深く重い息を吐き出す。
 「……困ったお兄ちゃんね」
 それでもほんのりと優しさの滲む声でメイコは娘に笑いかけた。

 

 


 下駄箱を開けようとしてカイトは背後から首を締められた。
 「おっはよー! カイト。チョコ入ってるか?」
 「……はいはい。おはよう、リン」
 楽しそうに自分の首を締めるリンの手を掴むとカイトはするりと抜けだして下駄箱を開けて見せた。
 そこには可愛らしい包装紙に包まれたチョコが幾つか入っていた。
 「おお! 良かったね~、カイト。……やっぱり、がくぽの方が多いか……」
 自分の背をバシバシと叩いた後に腕を組んで頷いていたリンを見て、カイトは首を傾げた。
 カイトの手には鞄があるが、目の前にいるリンは鞄を持っていないのだ。
 「ん? ああ、鞄は教室だよ」
 「もしかして、俺の下駄箱にチョコが入ってるか確認するために……待ってたの?」
 「そうだよ。がくぽの下駄箱は凄かったよ~。こう、チョコが整然と入っていてさ……」
 身振り手振りを交えて話すリンをカイトは何とも言えない表情で見ていた。
 たかだか友人のチョコの為にここまで出来るとは……。

 


 リンと一緒に教室に行くと教室の入口でがくぽが女生徒からチョコを渡されているのを目撃した。
 「おお~。これで何個目だ?」
 「そんなに貰ったんだ……がくぽ」
 出掛けに自分を見上げていた妹の姿がよぎる。
 幼稚園から帰ってから母と一緒にチョコを作ると張り切っていたルカ。
 そして、がくぽにもあげたいと何度も口ごもりながらもカイトに言ってきたルカ。
 暗澹とした表情でカイトはチョコを受け取るがくぽを見ていた。
 「……カイト君。あの、ちょっといいかな?」
 自分を呼ぶ声に首を巡らせたカイトはその女生徒を知っていた。
 「初音さん、どうしたの?」
 「出来れば……」
 女生徒に促されて歩いて行くカイトの背中をリンは緩みそうになる口元に手を当てて隠した。
 「……がんばれ」
 カイトと連れ立って遠ざかっていく顔を朱に染めていた女生徒にリンは小さくエールを送った。

 


 バレンタインの今日に人気の無いところは余り無く、あったとしても同じことを考える二人連れの姿がある。
 ミクは内心で微かに焦っていたが、それでもカイトを誘導するように先を進んで行く。
 「……初音さん。……初音さんっ」
 カイトの声に気付いたミクが振り返るとカイトは彼女から離れたところに立っていた。
 そのまま、ミクにおいでというように手を振るとカイトはすぐ側の部屋に姿を消した。
 『社会科準備室』
 プレートにそう表記された部屋の鍵は何故か空いていて、中には誰もいなかった。
 「ここの鍵、壊れているの。……で、あまり使われて無いから人もいないし、来ることもない……」
 そう言ってミクに笑いかけるとカイトはミクの反応を待った。
 「……あ、ありがとう。カイト君」
 辛うじてお礼を言うとミクはカイトの目の前に立った。
 心臓がバクバクと激しく主張して、手のひらに汗が滲んできた。
 意識しなくては呼吸すら忘れそうになるのを努めてゆっくりと呼吸をしてミクはカイトの前に箱を差し出した。
 

 

 


 「それで……チョコ貰っただけ!?」
 うっそー。信じられない。だってアレは告白するぞって雰囲気だったのに……。
 下校時にリンに詰め寄られてカイトはミクと何をしていたのかを告白するとリンは驚き、何事かを呟いている。
 リンの呟きは小声でカイトは聞き取ることが出来なかった。
 「あっ、がくぽ。今日、来れる?」
 「……別に構わないが」
 紙袋いっぱいのチョコを持っているがくぽにカイトはやっと切り出すことが出来た。
 ほっとした表情を見せたカイトはすぐに表情を引き締めてがくぽに言った。
 「良かった。……あのさ、ルカがチョコ渡したいって言ってるから受け取ってくれよ?」
 「……ルカちゃんから? 別に念押しされなくても受け取るけど……」
 眉を寄せてがくぽはカイトを見ると彼は今度こそ安心した表情になった。
 「良かった~。だって……がくぽ、いっぱい貰ってるからさ……」
 カイトの言葉にがくぽはむっとした表情でカイトを睨むとカイトは笑って視線を泳がせた。
 「ルカちゃんからチョコ! わたしも行くー! わたしも貰う! そして、ルカちゃんにもチョコ渡す!」
 人見知りの激しいカイトの妹がリンは可愛くってしょうがないのだ。
 会えば構おうとするリンから必死に逃げるルカをリンは様々な手で懐柔しようとしているのだ。
 カイトとがくぽは顔を見合わせた。
 「大丈夫か?」
 「リンの分も用意するって言ってたから大丈夫。……別にルカもリンの事嫌ってないし……」
 「……そうなのか?」
 気遣わしげな目を向けてくるがくぽにカイトは頷いてみせた。
 「俺を誰だと思っている?」
 胸を張るカイトの顔をしばらく見ていたがくぽは納得した顔になった。
 「……あっと! はい、これ!」
 にゅっと目の前に突き出されたラッピングされた箱と差し出しているリンの顔をみてくる二人にリンは続けた。
 「わたしからのチョコ! 手作りだよ?」
 「あ、ああ……ありがとう」
 「わー、ありがとう。作ったの?」
 それぞれに受け取り、中を覗き込む二人にリンはとりあえず、一発ずつ殴りつけた。

 

 

 

 

 

 そわそわと玄関を気にするルカをメイコは目を細めて見ていた。
 ちらりとルカの目がテーブルに置かれたチョコに向かう。
 母と一緒に作ったチョコにルカが自分で一生懸命選んだ包装紙とリボンを母に手伝って貰い、ルカが自分でラッピングしたのだ。
 しばらくチョコを見ていたルカの目が今度は壁に掛かった時計を見る。
 「大丈夫よ、ルカ? もうすぐ帰ってくるわよ?」
 娘の頭を撫でてメイコは目を合わせる。
 微かに不安そうな表情をしているルカにメイコは笑ってみせた。
 「上手に出来てるから、平気よ? がくぽ君ならちゃんとお兄ちゃんが連れてきてくれるわよ?」
 こくんと頷いたルカの目が、また玄関に向かうと表から賑やかな声が聞こえてきた。
 ぱっと表情を明るくしたルカがそわそわと体を動かしていると玄関の開く音とカイトたちの声が聞こえてくる。
 すると、ルカは立ち上がり玄関に駆けて行く。 
 走っていく娘の背とテーブルの上のチョコを見てメイコは柔らかな微笑みを浮かべると玄関に向かった。


後書き
ここまで書いてからレンが出てきていないことに気付いたので……。
おまけ
 小学校から帰ってきたレンを待っていたのは、紙切れだった。
 リンの字で大きく『冷蔵庫の中』と書かれているのを見て、レンは冷蔵庫に向かった。
 冷蔵庫の中にも紙が入っていてやはりそこにもリンの字で大きく違う場所が書かれていた。
 変な顔をしたレンがリンの指令に従い家中を駆け回る姿を母親は楽しそうに目で追っていた。
 「チョコ、どこだよ! リン姉ちゃん~!」
 レンがリンの手作りチョコを見つけるまであともう少し……。
以上です
By 瀬川 唯

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