浮ついた雰囲気の残る町並みを足早に通りぬけ、集合の予定で取っていた宿に足を踏み入れる。愛想のいい店主がにこやかにあいさつをしてきたので、一旦歩みを止めて二言三言言葉を交し、幼子のいる部屋へと戻った。
「オリジナル!! 」
はしゃいだ様子でベットから跳ねるように下り、飛びついてきたぬくもりを慌てて抱えなおす。一瞬、まとめて後ろに倒れそうになったのだ。
「あぶねぇ! 簡単に飛びつくな! 」
「おかえりなさい! 」
嬉しそうにそう言った後、ぐりぐりと法衣の上に顔をこすり付けてくる。そんなレプリカの頭を軽く叩きながら、室内へと促す。レプリカは促されるままに、一緒に中に入るとしがみ付いていた温かい体温が離れていった。備え付けの小さな冷蔵庫からレプリカが歪な包装の小箱を取り出してくる。
「これ! オリジナルに」
荷物を置いて、法衣の上を脱ぎながら差し出されたものを見る。
「なんだこれ」
「バレンタインのチョコ! ノアールに聞いたんだ。今日ってすきなひとにあげる日なんでしょ? 俺、オリジナルの事大好き! 」
そう言いながらぐいっと押し付けるようにチョコを渡され、反射的に受け取ってしまう。
「男は花やカードだ。チョコは女が渡すんだぞ」
歪な包装紙をベットに腰掛けて丁寧に剥がしながら軽口のつもりで言うと、目の前に座り込み(床に座るなと何時も言っているのに)箱を開けるのを待っていたレプリカが目に見えてうろたえだす。
「え、嘘……いらない? 」
「要らんとは言ってないだろ。お前も食うか? 」
そう聞くとレプリカが珍しく渋面を作った。
「オリジナルってたまに鈍い」
「は? 」
床から立ち上がり、汚れを払いながら自分のベットに向う様子が何処かむくれている。
「オリジナルに渡してるんだから一人で食べてよ、俺はお風呂行く」
そういい残して風呂の用意を片手に飛び出していった。
その勢いに呆気にとられていたが、もう一度渡されたチョコを見る。歪な包装紙を見れば大体は理解できる。
「こんな屑に手作りとかすんなよな」
荷物の中からカードを取り出し、ベットの上に置いて置くと、包装を解きチョコを一つ取り出した。生チョコとロックのようだが、生チョコにココアを塗しすぎていてロックにまでココアが満遍なく着いていた。
一口含むと甘いものが得意ではない自分の為にか甘さの少ないビターを使われていた。香り付けのリキュールはオレンジを使用しているようでオレンジの爽やかさとココアの風味があっていて口に合う。
ロックも少しローストし過ぎたナッツが焦げ臭いが、同じリキュールの為かそこまで気にならずにすんだ。
全て食べきった後は、レプリカが普段から長湯してくれる事を感謝しながらベットに潜り込んだ。
顔をあわせる事が気恥ずかしく思えたからだ。
結局、帰ってきたレプリカがカードを見付けてはしゃぎ、飛びつかれて起されたのだが……