タルタロスで地上に出ていたアッシュはアクゼリュスで罪を犯したレプリカの異変に気付き、彼の同行者の眼に付かぬように保護したのは同じ顔の存在を良い様に扱われたくかなったからだった。
逃避か……超振動を使った影響か。
レプリカルークは記憶を無くしていた。
それを逃げだと思い、拳を振り上げたアッシュを止めたのはユリアロードを通じてアッシュの元に辿りついた漆黒の翼の面々だった。貧しいものたちで支えあう彼らからすれば、記憶を無くし容姿の似通ったアッシュに縋るしかすべの無いレプリ
カを殴りつけようとするアッシュは許せるものではなかったのだろう。
怯え縋るレプリカを捨て置く訳にも行かないと、その日から奇妙な面子で旅を始める事になった。
行く先々でレプリカの事を探すガイやナタリアにうまく誤魔化しながらの生活にも大分慣れ、おどおどと怯えてばかりのレプリカにも変化が見られるようになってきた。
アルビオールの中に足を踏み入れると、嬉しそうに駆け寄ってくる同じ姿をした幼子に持っていた包みを押し付けるように渡す事で抱きついてこようとする動きを押しとどめる。頬を膨らませながらも渡された包みを開き、一緒に待機していたギンジに揚げたての揚げ菓子を渡す子供を横目で確認しながら着ていたフードを荷物の中に詰め込んでいく。
「ギンジ、ケセドニアで情報を集める。それを食ったら飛ばしてくれ」
「わかりました! 」
レプリカとギンジは揚げ菓子を食べながら、感想を言い合っている。きゃらきゃらと笑い声をあげるレプリカが立ち上がり、水筒から珈琲を人数分淹れて配り始めた。
「はい、オリジナル」
「ああ……」
「あのお菓子は何処で見つけたの? 美味しかった」
幼い口調と外見がひどくアンバランスで、違和感を覚えるが、記憶の無い事が起因してか年相応の話し言葉になっているようだ。
「エンゲーブだ」
「えんげーぶ? って何処? 」
「ああ、そこに行った事は無かったな」
素直に頷くその仕草に戸惑いつつ、アッシュはそれ以上話すことを避けてギンジの元へ足を進めるが、レプリカは後を追ってくる。
そんな姿に、漆黒の面々はカルガモのようだとも笑う。
アッシュが居る時には必ずレプリカはアッシュの側に居ようとする。誰が何と言おうと、決して名前を呼ばずに。
宿の部屋割りに対しては我侭を言わずに一人部屋でも大人しく従うレプリカだが、三ヶ月たつ頃に目の下の隈に気がつきそれからは成るべく、自分と同じ部屋で休ませるようにしている。
風呂から上がり、部屋に戻るとレプリカはベットに伏せた体勢で眠っていた。日記を書いていたのか、ベットの下には彼が
日課にしている日記が落ちていた。
開かれたページには、記憶のフラッシュバックについてや、夢で見る過去の記憶について書いてある。……其の事はとうに気がついていたが知らぬフリをしている。
「おまえはここにいればいい」
枕元に閉じた日記をおき、胸を締める庇護欲と愛しさを噛み締める。
記憶なんて戻らなくていいのに、そんな愚かな願いと共に。