ルークは重々しくため息を吐いた。ナタリアとアッシュの間の子が産まれた祝いのパーティに参加したのだが、体調が悪化してしまい窓際の部屋で休むことになってしまったのだ。アッシュの側には居られないのは知っていたが体調が悪くなるのは予想外だった。
(最近、食欲落ちてるし……ただの風邪ならいいけど……)
ルティの命を貰ったのだ、彼女との約束もある。この体を大切にしなくてはいけないのに。胃のむかつきを覚え、元々好んで飲まなかったアルコールの類を受け付けない。アッシュには気取られないようにしてはいるが、彼の目を誤魔化せるのも何時まで続くか。
其の時、静かな部屋にノックの音が響いた。
(誰……だろ? )
「どうぞ? 」
促すと、一人のメイドが現れ、もう直ぐ迎えの馬車が来ることを告げた。丁寧に頷き、身のこなしに注意を払いつつ立ち上がる。
入り口とはいかないにしても近くで待っていよう。そう思いメイドの一人に手を貸してもらいながらルークは入り口に向う。
(寒いと思ったら雨か)
静々といった様子で雨が降り出していた。暗い窓の向こうでは気がつかなかった。
明後日、ルティシアは爵位と領地を得る。その授与式には体調を整えておかなければ。
廊下を進み、メイドに礼を言って別れて少しした時。目の前がくるくると回る感覚と頭の中がぐにゃりと歪んだ感覚に襲われる。眩暈に立っていられなくなり体が傾ぐ。
思わず、膝をつく。
悪寒が過ぎるまで耐えていると、ノックの音が響いた。顔を上げ掠れた声で入室を促すと慌てて入ってきたのは彼女が雇うレプリカの一人だった。
「ルティシア様! 」
……………………
慌てて助け起され、屋敷の部屋に戻る。呼ばれた医師の診察結果に驚き息を飲んでいると部屋にアッシュが入ってきた。
「あなた……」
知らせるなと言ったのに……と呆れていると、医師は一礼して部屋を辞した。枕元まで足早に近寄り顔を覗き込んできた愛しい人に笑いかける。
「宴は? 」
「抜けてきた、大丈夫か? 」
「ええ、病ではないみたい」
そう告げて腹に手を添えると、驚いた顔を見せ、破顔したアッシュは溜まらずいとおしい女性を抱きしめる。全身で喜びを表す人の腕の中でルークは不意に頭を過ぎった思考に囚われる。
彼はナタリアが子を生んだ時、ここまで喜ばなかった。……それが、心臓を締め付けるように重く感じたのだ。今も彼は宴を抜けてきた。覚悟の上のはずの事が現実に音を伴い両肩に圧し掛かったのが解った。