プレゼントの中身は?
レンが箱を開けると甘い香りが鼻をくすぐる。
箱の中のケーキは甘い物にうるさいミクお勧めの店の物で鮮やかな彩りと華やかさで洗練されていた。
リンが中を覗き嬉しそうにミクと選び出すのを見たレンはお茶の支度をしているルカを手伝いをする。
余談だが家事が出来ないルカだがお茶に関しては完璧にこなすし、とても美味しいと評判だ。
危なげない手付きでお茶を淹れるルカにリンが楽しそうに聞いた。
「ルカはクリスマスどうするの? がっくんとデート?」
嬉々として聞くリンにミクが自信たっぷりに言い切った。
「それはない。クリスマスの打ち合わせをお兄ちゃんとしてたよ? がくぽさん」
「打ち合わせって?」
どこか不満そうなリンにミクはつまらなそうに続けた。
「当日の料理とかなんとか言ってたよ。それにグミちゃんたちが来るし、だったらがくぽさんも来るでしょ」
グミたちが来るなら確かに二人でというのはがくぽの性格上ないな、確かに。
「そっかー残念。……じゃあさ、プレゼントは何にしたの?」
瞳を好奇心に輝かせてリンがルカに聞くとルカはカップを琥珀色で満たす手を止めずに浮かない顔を見せた。
「まだ決めてませんわ」
嘆息しルカは緩く首を振ると困ったように微笑んだ。
「えーなんで? がっくんだったらルカが選んだものなら何でも…………あ」
答えに気付いたリンは分かったようにルカの肩を叩き請け負った。
「そういう事なら相談に乗るよ、まっかせなさい」
レンもミクもルカに頷いてみせるとルカは嬉しそうに頭を下げた。
場所をリビングに移したレンたちはケーキと紅茶で作戦会議を始めた。
買うのなら早めに下見して買う必要があるが何がいいかがわからない。
「僕かミクががくぽに聞いてみるよ」
「でも、がくぽさん答えるかな?」
それを言われると言葉に詰まるが聞かなくては意味が無い。
「ルカが聞いたとき何でもいいって言ったならわたしたちが聞いても笑ってはぐらかすだけじゃない?」
ミクはがくぽが嫌いなのかと思うほどにそっけない態度をとるががくぽをよく見ている彼女が言うと一気に無理な気がしたレンが黙りこんで紅茶を口に含むとリンが満面の笑みを浮かべて立ち上がった。
「簡単だよ。ルカがリボン付けてプレゼントになればいいんだよ」
得意げに胸を張り言い切るリンの言葉にレンは飲んでいた紅茶を吹き出し盛大にむせた。
「ぶふぉっ…………お前っ……何言ってんだよ!」
「えーなんで。好きな子からそんな事言われたら喜ぶって本に書いてあったよ」
頭を抱えるレンを横目にミクは思う。
確かにそんなプレゼントならむしろわたしも欲しい。叶わない望みに微かに胸が痛む。
「でもさ、その場合、どこで?」
淡々と指摘するミクに我に返ったルカが引き攣った声で抗議する。
「ミクお姉様!?」
真っ赤になったルカは言葉にならない様子でミクとリンの顔を交互に見ていた。
「何を騒いでるの?」
「お姉様っ!? 皆さんが……」
リビングに顔を出したメイコにルカが必死で訴えるとメイコは事も無げに言った。
「別にいいんじゃない? ホテルだったら予約してあげるわよ?」
もごもごと真っ赤になって言うルカにメイコが笑った。
「そんなっ、……だって、わたくしたち……まだ……」
「まだなの? ならいい機会じゃない。任せとけば大丈夫よ」
絶句して立ち尽くすルカ。
思わぬところからの援軍に勢いづいたリンたちが勢いづいた。
当人のルカを放って騒ぐ三人にルカがたまらずに叫んだ。
「そんな、だってまだキスしたことも無いのですよ!? それなのに……無理ですわ!?」
その発言に皆がさらに騒ぎ出すと叫んだルカは家を飛び出して行く。
「あっ、ルカ!!」
慌ててレンが追いかけようとするといつの間にかカイトが現れてレンに声をかけた。
「レン君、帰りに卵と牛乳買ってきて」
手を振って答えたレンがルカの後を追っていったのを見たカイトは残る三人を座らせた。
「メイコさん、ミクさん、リンさん、俺は悲しいです」
いつにない優しげな言葉と笑顔に無言で三人は正座した。
レンがルカを追って家を出たがルカの姿はなく、路地の向こうからルカの声が微かに聞こえて来た。
慌てて声のした方に駆けていくと呆然と立ち尽くしているがくぽを見つけた。
がくぽの前に立ち止まり呼吸を整えたレンは顔を上げた。
「レン殿!? 一体、我が何をしたと!?」
その瞬間、取り乱すがくぽに肩を掴まれ激しく揺さぶられた。
揺さぶられながらもレンはがくぽから事情を聞き出した。
道を歩いていたがくぽに家を飛び出して走っていたルカがぶつかった。
体勢を崩したルカを支えたがくぽの顔を見た途端にルカは顔を真赤にしてがくぽの手を振り切って逃げた。
がくぽに「無理です!!」という言葉を残して……。
悲痛な顔でがくぽが話すのを聞いたレンは思わず空を仰いだ。
付き合いだしたばかりの恋人にいきなり拒絶され取り乱すがくぽも放って置けないが、動揺して飛び出した妹の行方も気がかりだ。
必死に自分に縋るがくぽを宥めて落ち着かせてからレンはがくぽに付いて来るなと念を押してからルカの後を追う。
交差点に飛び出しかけていたルカを慌てて止めてレンはルカを宥める。
「レンお兄様! わたくしっ……どうしたら……」
必死にレンに縋り涙目でルカは訴える。
がくぽに酷い事を言っってしまったと泣きながらルカはレンに訴えた。
「嫌われてしまったら……どうすれば……」
「大丈夫。がくぽがルカを嫌うはずないよ……むしろ、嫌われたのかと落ち込んでたよ」
「そんなっ……嫌いになんて……」
「うん、分かってるから大丈夫。……がくぽだって分かってるよ」
不安そうなルカを宥めながらレンはルカとスーパーに向かった。
「ルカ、がくぽへのプレゼント……何か作ってみたら?」
スーパー内の一角に出来ているクリスマス特設コーナーを見てレンはルカに提案した。
ぴくりと片眉を上げてルカが引き攣った声を出す。
「手作り……ですか?」
「そう……料理じゃなくて、こっち」
レンは製菓の材料が並ぶ一角からルカを手芸コーナーへと誘う。
「編み物ですか……編み物なら出来ますわ」
ほっとした様子でルカは並ぶ色とりどりの毛糸の中から幾つか選び出した。
「喜んでいただけるでしょうか……」
「絶対に喜ぶって……ルカががくぽの為に作るんだから……」
選んだ毛糸を大切そうに胸に抱きルカは微かに頬を染めて頷いた。
後書き
何故か頭に浮かんでしまったので書きました。
この後がくぽがカイトに相談しようと来たら三人を正座させて説教しているカイトを見て、三人から口々に暖かい激励と叱責を受けてカイトから何故かルカをよろしくされていたりします。
カイトが何故かがくぽに抱きついてサイズを測っていたりもするかもしれません。
出来る人だが変なところで抜けているのが家のカイトです。