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誰も悪くない
————おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえがわるいおまえがわるいおまえがわるいおまえがわるいおまえがわるいおまえがわるいおまえがわるいおまえのせいだおまえがわるいおまえのせいだおまえがわるいおまえのせいだおまえがわるいおまえのせいだおまえがわるいおまえがおまえが…………おまえが!! なにもかも——おまえが!!
夜明け、自室で寝ていたルカは跳ね起きた。
荒い呼吸を繰り返し震える体を震える細い両腕で抱きしめたルカは視線を彷徨わせた。
見慣れた自室を確かめるように何度も彷徨う視線がある一点で止まった。
ルカはのろのろと腕を伸ばしてそれを手に取った。
それははやくしろと言わんばかりに明滅を繰り返してルカを急かす。
中を確認したルカは無表情にベットに倒れ込み耳を塞ぎきつく目を閉じた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」
ルカの頬を静かに涙が一筋流れ落ちた。
……かしゃん。
「あっ、すみません」
皿が割れる音でルカは我に帰り、慌ててしゃがみ込み破片を拾おうと手を伸ばす。
「っつ!」
指先に走った痛みにルカは手を引っ込めた。指先に薄く赤いものが浮かんでいた。
「手、見せて」
ルカの手を取ったカイトは傷を確認してから絆創膏を巻きつけた。
「はい、おしまい」
「あ、ありがとうございます」
カイトはルカの顔を覗き込むと真剣な顔で問いかけた。
「何かあった?」
ぴくりとルカの肩が揺れて瞳に何かが揺れた。
それをカイトは確かに見たがすぐにルカはいつも通りの笑みを浮かべて何でもないと笑った。
「破片は俺が片付けるから、ルカはもういいよ」
ルカの姿がキッチンから消えてしばらくしてからカイトは沈痛な顔で溜息をついた。
「しばらくは一人歩きはしない事。後、暗くなるまでには帰って来れるようにスケジュールを調整しておくから夜は出歩かないこと。どうしてもの時は俺が迎に行くからそれまで待っていること。いいね?」
カイトはリビングに集まった兄妹の顔を見まわして念を押した。
彼の手元には今回の盗作騒動の資料が集められていた。
何時ファン同士の叩き合いに発展するかもしれない状況にカイトは、自分たち——ボーカロイドに危害を加えられることを警戒しているのだ。
集められた兄妹も神妙な顔で頷き不安そうに顔を見合わせた。
「大丈夫、そのうちに収まるよ。だから、俺達は俺達の出来ることをすればいい」
カイトが笑って言うと場の空気が少し軽くなった。
そして、それぞれの出来ること——歌を歌う為に皆が準備に向かった中でルカ一人がぼんやりと座り込んでいた。
「ルカ?」
「あっ、わたくしもそろそろ支度しますわ」
足早にリビングから出て行くルカに伸ばした手を浮かせたままカイトは眉を顰めた。
問いたげなカイトから逃れるようにルカは自室のドアを閉めた。
そのまま必要な物をバッグに詰めて最後に明滅する携帯の中を確認してルカは無表情にそれも仕舞うと部屋を出て行った。
「ルカ」
玄関を出てすぐに涼やかな声がルカを呼ぶ。声の方を見ると塀に寄りかかっていたがくぽがルカに近づき笑いかけた。
「おはよう。行こうか?」
ルカの手の荷物を引き取りがくぽはルカの異変に気付いた。
「どうして……ここに」
「迎えだが……いかがした?」
どこか顔色の悪いルカの顔にがくぽは触れると包み込むようにして覗き込む。
暖かく優しいがくぽにルカの瞳が僅かに潤む。がくぽが重ねて問おうとした時。
暴力的な機械音が辺りに響いた。
その音に誘われるようにルカはバッグから携帯を取り出して中を確認した。
目の前が黒く染まっていき体が傾いだ。
どこか遠くでがくぽの慌てる声が聞こえた。
彼の温もりと匂いが近づき遠く消えていった。
ルカが目を覚ますと見知らぬ白い天井があった。
「……ルカ?」
声が聞こえる方に首を巡らせればどこか顔色の悪いがくぽの姿があった。
「がくぽさん……」
「ああ、いい。まだ無理は駄目だ……寝ていろ?」
慌てて起き上がろうとするルカを制してがくぽはルカを寝かしつけた。
傍の椅子に腰掛けてがくぽはルカの顔にかかる髪を払いルカに笑みを見せた。
「たちの悪いウイルスだったそうだ。しばらくは入院が必要とのことだ」
「お兄様方は?」
「一度支度に帰られた」
「そうですか……」
微かな吐息を零してルカは黙り込んだ。
「酷い事をする」
突然の冷たく鋭いがくぽの声にルカは弾かれたように彼を見た。
がくぽの手の中には彼女の携帯があった。
「失礼だとは思ったが改めさせてもらった」
棚に携帯を僅かに乱暴な仕草で置きがくぽはルカに迫った。
「何故、話してくれなかった?」
携帯を埋めるおびただしい誹謗と中傷。
送りつけられたウイルス。
それを受けてルカは倒れた。
その全てが許せなかった。
気付くのが遅れた己と顔の見えない悪意にがくぽは怒りを隠すことが出来なかった。
ルカは激昂するがくぽを見るのは初めてだった。
握り込まれた彼の手は白く変わるほどに力が入っていた。
「……あ、がくぽさん」
「何故!!」
ドンっと衝撃が伝わる。
ルカの顔のすぐ横に彼の手が、すぐ傍に彼の瞳が吐息がかかりそうな距離に顔があった。
「何故、話してくれない? 何故、抱え込もうとする? 何故、頼らない?」
泣きそうともとれる悲痛な顔でルカを問いただすその彼の手が微かに震えていた。
「ごめんなさい。わたくしがわる……」
「悪くなど無いだろう!? ルカが何をしたという…………我等がボーカロイドが、一体、何を」
声を荒らげがくぽは呻く。
ボーカロイド自体を否定する全てを、大切なものを傷つける全てを呪うようにがくぽは紡ぐ。
「ルカ、そなたは我が守るから……だから、信じてくれ」
ルカの手を取り祈るように額に押し付けがくぽは訴えた。
「……ごめんなさい」
がくぽの手に己の手を重ねてルカは泣きそうな声を出す。
自分が悪いとルカはずっと考えていた。だから、必死で耐えていた。
自分が耐えればいいとそれで済むと思っていたのに、目の前にいるがくぽは自分以上に傷ついていた。
それでもルカは悪くないと、守ると、信じろと彼は言う。
一番、頼りたかったけれども一抹の不安から頼ることが出来なかったルカは謝ることしか出来なかった。
何度も謝りながらルカは泣いた。
がくぽは驚いた顔をしたがすぐに泣くルカを抱きしめた。
大丈夫だと何度も囁き髪を撫でて零れ落ちる雫を掬っていく。
部屋にルカの泣く声が響く。
それに合わせて宥めるようにがくぽはルカが泣き止むまで優しくルカを抱きしめたままだった。
後書き
ボーカロイドが実在して、感情があったとしたら……ですね。
ツイッターでRTでしか知りませんが、某ファンの方々の行動からです。
作者さまもボーカロイドも悪くはないとわたしは言いたいです。
By 瀬川 唯
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