その後は慌しかった、そうとしか記憶していない。
兎に角、子供……ルークを連れて自分の屋敷の中にある研究室へ戻り、検査を行い処置の方法を決めることから始めたのだ。
アッシュの言葉を鵜呑みにした訳ではないが、自分の中の何かに突き動かされた。
暫らくして、現場に残してきた部下とガイがやってきた時には、うまくはぐらかして追い返しはしたが……その後から何か疑っているのか、ガイはよくこちらの様子を窺っている。
検査の結果は予想していた事とは違うものだったが、その後の処置のお陰かルークは日増しに活気を取り戻してくれた。
完全に気は抜けないが、それでもルークの容態は安定した頃になり。アッシュは今までの事を掻い摘んでジェイドに話始めた。
ベットの上に腰掛けたアッシュの膝の上で満腹になったために安らかな寝息を立てる幼子を意識してか、その声はとても潜められていたが……赤い瞳は優しい色をたたえ、その手は愛しげにルークの髪を撫でている。
「帰って暫らくは、帝王学の学びなおしやマナーのおさらいなんかをしていたんだ。その時は覚える事が多くてたいして意識したことは無かった。……でも、一通りこなせる様になって精神的なゆとりが出来た時……周りの言葉や目が気になりだした。……ルークと比べられる、ルークを求められる。悲しみや憎悪をぶつけられる。……前は気にならなかったのに、意識したらもう、駄目だった」
朱色の髪を指に絡め、ふっくらとした子供の頬らしい丸みを取り戻したルークの頬を優しく撫ぜる。
「ルークの記憶が、辛かった……」
「アッシュ……」
かつて見たことも無いような弱った姿、そんな彼が簡単に想像できた。
「ローレライに縋りついたのが、帰ってから調度……半年くらいかな。呼び出して、返してもらった」
誰を、と彼は言わなかった。言わなくても理解できる。そう、理解できるのだ。
「でも、音素が足りなくて……だから、俺の体の音素を使ってもらった。色素を失ったけど、得るものは大きい。ルークは記憶と肉体年齢を失ったけど今は生きている」
「そう……ですね」
そう、彼は……この子は生きている。
ジェイドはあの時、再会した時の突き上げる衝動の意味を正しく理解した。救いたかった。自分の愚かさで生まれた悲しい魂と、その魂の半身を。
「アッシュ、ルークはまだ予断を許しません。このまま私の屋敷で滞在してください。ここなら、ルークの音素の安定を確保出来ます」
ルークの身体を蝕んでいた病は、いまだレプリカの身体を持った彼が人となろうとする際に起こる音素の振動によるものだった。
アッシュが彼を癒そうと音素を注げば、変化を望む音素の動きが活発になりより一層の苦痛を与える事になっていた。
ジェイドの検査結果を聞いた時、赤い瞳は白い瞼と透明な髪(色素を完全に失った為に傍目からは銀に見えるが本来は色の無い髪になる)に隠され、それでも隠し切れないやるせなさをたたえていた。
「いいのか?」
「ええ、歓迎しますよ。屋敷の使用人を解雇したところだったので管理人が居る方が私も楽です」
あとがき
ジェイドさんちに転がりこむ、です。アッシュの設定は某Vの付く関連ソフトで思いつきましたw