神威さん家のルカちゃん 2
診察台の上に乗せられたルカは不安気にがくぽを見上げる。
「……がくぽ?」
がくぽに少しでも近づこうと移動するルカを無造作に引き寄せメガネが似合う獣医はルカの服をまくり上げて慣れた手付きで診察していく。
「きゃあっ……何するの!?」
牙をむくルカの口を獣医は指でこじ開けて見た。
「や~、いい子ですね~。はい、特に問題は無いみたいですね。では予防接種を……」
ぐったりしたルカの背中に獣医は注射器を突き刺す。
ピッと全身の毛を逆立てたルカはがくぽを見上げた。
「……がくぽ」
耳と尻尾も垂らしたルカの大きな目から今にも涙が零れ落ちそうだ。
「はーい。おしまい」
獣医の手が離れた瞬間にルカはがくぽに駆け寄り懐に入り込む。必死に中に潜り込んだルカはふてくされた様子でがくぽが呼んでも反応しない。
「ルカ、あの人……きらい」
病院を出て少し行った所でルカが顔を覗かせてがくぽに訴える。
がくぽは黙ったままルカの頭を撫でる。嫌いだろうとこればかりは我慢してもらうしかない。
がくぽの態度にムッと不機嫌そうにルカはまた中に潜り込む。困った様子でがくぽはルカを呼ぶが返事もしない。お疲れのようだ。
「テルさんとこ行ったら帰るからな」
もう少し頑張れとルカに声をかけてがくぽは足早に向かう。
自動ドアを抜けたがくぽは店内奥のカウンターにいるメガネをかけた男を見つけ声をかける。
「テルさん。こんにちは」
「ああ……がくぽさん、いらっしゃい」
作業の手を止めてがくぽを見た男は笑みを浮かべる。そしてカウンターの後ろの棚から紙袋を取り出し中身を出した。
「はい、ルカちゃんの服の手直しでしたね。お待たせしました」
カウンターに服を広げてがくぽに見せる。がくぽがルカに似合うと思いネットで購入したがサイズが合わなかったのでオーダーメイドの服を手掛ける彼の店に直しに出したのだ。
「何か……大分変わってません?」
「タイトル『華』です。ルカちゃんに似合いますよ」
黙りこむがくぽの懐からルカがスルッとカウンターに出てきてウーンと伸びをした。不思議そうに広げられた服の匂いを嗅いでいる。
それでは試着をとがくぽはルカの服を脱がして着替させる。
フニャと首を傾げてルカはがくぽを見る。着物調の服がいつもと違う雰囲気でよく似合っている。
「ルカちゃん、可愛いですね~。ところで今度の新作ですが……いかがですか?」
「給料日前なので……」
ルカに見とれるがくぽの前に男はどこからとも無く取り出した服を広げる。白を基調にレースやフリルをふんだんに使用した服は確かにルカに似合いそうだ。
渋るがくぽに男はまだ試着をしていないのでしてもらえませんかと笑いかける。
新作の服はデザインのわりには着付けしやすくなっていた。小柄なルカは少し大きい服を身につけて機嫌よさそうに尻尾を揺らす。
「がくぽー。似合う?」
思わず携帯で写真を撮ろうとしたがくぽの手を抑えて男は言った。
「試着品の撮影はご遠慮ください」
「一枚だけでも?」
無言で首を横に振る男。がくぽは悩んだ。買うべきかどうか……。
「これでしたら一点物ですし、すぐに売れそうですね」
「買います」
「毎度、ありがとうございます。サイズ合わせの間、店内でお待ちください」
ルカのご飯や何やらをカゴに入れてがくぽが男の元に戻るとすでに直しは終わっていた。
カゴの中の商品をレジに通して袋に入れながら男は言った。
「季節も変わりますし、新しいベットなどはいかがですか? カタログも入れておきますね。……あとこちらのリボンとおやつの試供品も入れておきます」
またどうぞご利用くださいと笑顔で見送られたがくぽは寂しい懐事情に難しい顔をしていたがそれでも機嫌の戻ったルカの姿に笑みを浮かべた。
後書き
メガネが似合う獣医は最初キヨテル先生の予定でしたが頭で練っている間に遣り手の店長になってしまいました。
こうなると犬がくぽも書いてしまおうかと計画中です。