最初は……憎しみと執着だった。
いつしかそれは同情に摩り替わり……。
逃れようの無い激しいまでの恋情となっていた。
自分の罪深さを知り、人知れず涙を流すその姿は……硝子玉の様な脆さと美しさを持っていた。同時に自身の救い様の無い愚かさと幼稚さを痛感した。
かれは幸せになるべきだ、幸せになってもいい。
しあわせにしたい。まもりたい。
それは事切れるまでアッシュが祈り続けた願い事。
少し足元がぐらついた為、体勢を立て直す。そこはファブレ邸の大きな庭の一角だ。
「うまくいったな」
顔を上げ、アッシュはニヤリと笑みを浮かべる。その背後に人の気配を感じて、チラリと視線を向けると……。
其処にはヴァンが酷く優しい笑みを浮かべて立っていた。若く見られない為の髭がより一層その笑みをあれな感じにしているのをきっと本人は知らない。
そっと肩に手を乗せ、ヴァンはアッシュの耳元に囁く、どうでもいいが吐息が耳に当たるのが不快だ。
「見なさい、ルーク。お前でなくてもいいのだ。お前の居場所は……ごふぅ!!!!!」
「触るんじゃねぇ!!この屑髭がぁぁぁぁぁ!!!!!」
空優しく白々しくアッシュに囁きかけていた髭に、アッシュは子供の姿で出来る最大限の蹴りをお見舞いした主に股間に。
思わぬ反撃にヴァンは唾を吹き(汚い)悶絶する。とりあえずは後ろ足でぐりぐりと踏みつけてやりながら(ここに来るまでに散々魔物の死体やらなにやら踏んできている靴だ、ざまぁ) アッシュは視線を陽だまりの中に居るであろう愛しの同位体に向けた。
「あっしゅ!! アッシュ~!!」
向けた瞬間、何だがひどく可愛らしい生き物がこちらに駆けてきていた(何だあの惑星譜術並の愛くるしさは!!!!!! )
思わず思考の彼方に吹っ飛びそうになったが、左右に首を振る事で気を取り直しアッシュはもたもたよろよろと覚束無い足取りで走ってくるルークに駆け寄った。
どうやら髭を蹴り上げた時の声でこちらに気づいた様子の面々が驚きに目を見開いて見ていた。
「アッシュ!!!」
「ルーク!!!」
中ほどで手を取り合い涙を浮かべて互いを見詰める。まるで恋人同士ではないか!!!!
そんな悦に浸りそうになった時、背後でチュドーンかドカーンかバコンかボーンかとにかくそんな爆発音がした。
驚いて振り返るとそこには譜術の直撃を受けて完全に焦げて伸びた髭とクレーター。生きてるかどうかは問題ではないが、この凄まじい譜術を使ったのは……。
「あらあら、生きていますのね」
残念とおっとりと呟くその人は、母だった。どうやら、母はそこらの死霊使いよりも凄腕の譜術師らしい(知らなかった)
続く
はい、親子逆行です!