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TOA・ボーカロイド中心の二次創作です
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ざくろパロの『こい、ひらり』の続きです。
何だかすごく大変だったです、はい。
よろしければ追記よりどうぞ

+ + + + + + + + + +
こい、ひらり 2

 レンが妖人省内部を見学という名目で見て回っていると見知った長身が廊下に立ち尽くしていた。
 「……がくぽさん、どうかしましたか?」
 立ち尽くすがくぽの背中が普段の彼と違い悄然してるように見えたレンは恐る恐るその背中に声をかけた。
 「……鏡音少尉。正直に答えたまえ」
 「は、はい!」
 真剣ながくぽの声にレンは背筋を伸ばすと質問を待った。
 「私は悲鳴を上げて逃げるほど怖いのか?」
 「……はあ?」
 「……先程、会ったルカ殿が私の顔を見て逃げ出したのだ。私はそれ程に怖いのか? 率直に聞きたい」
 気の抜けたレンの声に彼は言葉を足してレンを見た。
 自分より遙かに高い位置から真剣に見てくるがくぽにレンは躊躇いがちに答えた。
 「……では、失礼して。……怖いと思います。がくぽさんは上背がありますし、表情が読めないために自分も威圧感を感じることがあります。……慣れない、しかも女性ではさぞ怖いのではないでしょうか」
 レンに言葉少なに頷くがくぽからはやはり表情は読み取れない。だが、気を悪くしたようには見えず、どちらかというと真摯に受け止めているように見えた。 
 「まあ士官学校時代に『敵に回したくない男』、『戦場で会いたくない男』などの番付で大関を総なめにしただけはありますよ」 
 「……なんだ、それは?」
 眉を顰めて訊いてくる彼にレンはしまったと口を手で押さえた。
 「知らなかったのですか? 結構、盛り上がっていましたけど……」
 「いや……知らんな。まあ、ありがとう。レン。……参考になった」
 困惑した表情をしていたがくぽは咳払いをしてその場を後にする。遠ざかっていく背をレンは見送った。



 「……さっすが、上流の方は違うね」
 皮肉げに呟くとレンは腕を組む。
 「……妖人の巣窟だと言うのにほとんど変わらないんだな。……たっく、面倒なことばっか押し付けやがって……」
 順当に出世街道にいたはずなのに面倒事に巻き込まれたとレンは舌打ちして何事かを呟いていたが、気が済んだのか肩を回して普段と違うがくぽに首を傾げた。
 「……それにしても、がくぽさん。怖いか訊いてどうするんだろ?」
 「……うーん。別にあの人が悪い訳じゃないから……気にしなくてもいいんだけどね~」
 「えっ……何で? 無駄に迫力あるの、に……」
 「それは否定しないけど。ルカの場合、男の人が駄目だからね~」
 金髪の少女がそこにいることに会話を交わして漸く気付いたレンはぎくしゃくと笑みを浮かべた。
 「……リンさん。いつからそこにいたのですか?」
 「ん? ああ、あの人と君が話していた時からかな。深刻そうだから声かけれなかったんだ」
事も無げに答える少女の笑みをまともに見ることがレンには出来なかった。
 「あ、それと……わたしのことはリンでいいよ」
 少女の腕を取るとレンは真剣な声で嘆願した。
 「この事は内密に!」
 「この事って?」
 訳がわからないと言った顔をする少女にレンは自分の態度だと囁くと彼女は不思議そうな顔で首を傾げた。
 「何で? あれくらいフツーじゃない」
 「自分は帝国軍人として何時如何なる時も軍人らしくなくてはなりません」
 「……めんどくさー。さっきの方が君らしいよ? ここではいいんじゃない?」
 それは出来ないと頑なに断るレンの表情に微かな苦渋の色が浮かぶと少女はさらりと笑みを浮かべて身を翻す。
 「まあいいけどね~。……人間って不便ね~」
 その少女の笑みと行動をレンは少し羨ましく感じて去っていく背を切ない表情で見送った。 







 自屋に戻ろうとしたがくぽは茶色の髪の少女に呼び止められてミクの部屋を訪れた。
 がくぽとミクにお茶を出して少女が部屋を後にするとそれまでにこやかに笑っていたミクの顔がすっと痛いほどに真剣味を帯びた。
 「呼び出してしまい申し訳ありません。ルカのことで貴方には知っておいて……いえ、知っていただかなくてはならないことがありましたので……」
 一礼した彼女は姿勢を正すと静かな口調で語り始めた。
 「あの子の態度でお気を悪くされたかと思いますが、あの子は……」
 「……男が怖いのですね?」
 がくぽの指摘にはっと息を呑んだミクが苦く笑みを浮かべた。
 「……気付かれて?」
 「初めは私が怖いのかと思いましたが……どうやら違うように思いました。あとは、まあ……知人に似た態度をとる者がいまして……」
 確かに彼女は自分に対して怖がっていたがよくよく思い返すとカイトやレンに対しても怖がっているように思えたがくぽはミクの言葉に自分の導き出した答が間違っていなかったのだと理解した。『知人』については曖昧に答えると彼女もまたがくぽが言う『知人』に心当たりがあるのか曖昧に微笑んだ。
 「あの子は幼い頃に酷くいじめられた事がありまして……それ以来、男性を怖がるようになってしまいました」
 「相方を変えるのですか?」
 ルカの怯えた仕草ががくぽの頭を過ぎる。それではさぞ自分が恐ろしかっただろうと苦いものがこみ上げる。……ならば、自分以外の、少女が安心出来る者と組む必要があるだろう。その為にミクは自分を呼んだのだろうと思っていると彼女はそれを否定した。
 「いいえ……。お願いしたいのは違うことです。……おそらく、貴方に多大な迷惑をかけてしまうと思います。ですが……どうか、あの子と組んで、あの子を見守っていただきたいのです」
 三つ指ついてミクが深々と頭を下げるとがくぽは目を瞬かせて慎重に聞き返す。
 「何故、私なのですか?」
 「……あの子が自分から話しかけた男性は貴方だけです。……あの子もそれを望んでいます……あの子を少しでも憐れと思うのなら、どうか、あの子を……お願い致します」
 ミクの脳裏を震えながらも彼に向かい一歩進み出たルカが浮かぶ。やはり、無理かと部屋に呼び問う自分に震えながらもしっかり自分の瞳を見て大丈夫だと答えたルカをどうかとミクはがくぽに託すしかなかった。







 すっかり日の暮れた窓の外をふわふわと発光体が飛ぶのを見てカイトは引き攣った。
 先程からこみ上げる衝動を抑えこむべきか、従うべきかで悩んでいた。
 荒い呼吸を繰り返して眉を寄せると難しい顔で周囲を伺い神経質に指を組む。
 何度も自問自答して答えは出ている。ただ、それを実行に移すだけで済むことだ。それなのに行動するのを躊躇わせる。だが……このままでは。
 意を決したカイトは立ち上がると部屋の外に向かう。
 慎重に歩を進めるカイトは階段を下り、長い廊下に差し掛かったところで不気味な物音に足を止めた。微かに覗く襖の奥。きゃらきゃら、けたけたと姿形の異なる数多の妖人が、いた。
 禍々しく濁った数多の光が自分を捉えた気がした。
 「ひぇっ!!」
 その瞬間にカイトは矢が放たれるかのように転がる勢いでその場を後にした。


 「ん~? 騒がしいなー。何だよ、一体?」
 がらりと襖を開き中から顔を出したのはころんと丸い胴体にちょこんと小さな角を生やしたちんまりとした妖人だった。ころころと転がるように辺りを見回した妖人は中からの声にまたころころと戻っていった。
 


 カイトはどこまでも長く続くような廊下をひた走り、玄関に差し掛かると突然何かに足を取られたように転んだ。
 がくがく震えながらカイトが立ち上がろうと手を付くと、温かいものに当たった。
 「いてっ!」
 「す、すまない!」
 手の下から甲高い声が聞こえてきてカイトは慌てて手をどけると声の主と対面した。
 「そんなに震えて、どーした?」
 夜闇に鮮明に浮かび上がる白い毛並みを金色が縁取る狐のような動物が、にかっと口を開け首を傾げてカイトの顔を見て白く長い尾で体を叩いていた。
 「くすぐったいだろ! 止めろよ!」
 さわさわとその動物を無言で撫で回していたカイトは再び口を開き抗議した動物から火に触れたようにばっと手を離すと後ずさりし、駈け出した。
 「う、うわっ————!」
 「なんだよー? ……変なヤツだな」
 カイトの背を見送ったその動物は首を傾げて呟くと、くわっとあくびをして丸くなった。





 月夜の下をカイトはただひた走り広い空間に出た。月明かりの下、その場に膝を付きカイトは手を握りこんだ。がくがく震える足は自分の意志に反して動こうとしない。荒く乱れた呼吸を繰り返してカイトは握りこんだ手に爪を立てる。
 このままでは軍人としても人間としても不名誉な事態に陥ってしまう。ここまで、来たんだ。あともう少し……。
 ふいに月明かりが翳る。
 「……君は? ああ、軍人の方か。……こんな場所でどうした?」
 ずぅんと正面に立ち、月明かりを遮っていたのは、長身のカイトよりもさらに高い、着物の上からでも筋骨隆々としているのが人目でわかる獅子顔の偉丈夫だった。
 「…………」
 呆けたように口を開けて動かないカイトを案じるように獅子顔の偉丈夫が顔を覗き込んできた。





 
 「ふぅ~。さっぱりした」
 風呂から上がったメイコは手ぬぐいを片手に廊下を歩く。窓から差し込む月明かりに目を細めたメイコは儚い光にルカを重ねた。
 男性に自分から近づいていったのも、逃げてしまった後の事を気にする彼女を見たのは初めてのことだった。
 ミクとルカのがしばらく話していたと思ったら、ルカと入れ違いにルカの相方のがくぽをミクに呼びに行かされた。
 その後、男とミクの間に交わされた会話をメイコが知る術は無いが、自分たちを慈しんでくれてきたミクがする事なのだから信じるしか無い。
 それでも……不安は尽きること無い。
 「やだ、やだ、やだ!! 悪いふうに考えると引き寄せちゃうわ。……うん。ルカの『目』が選んだ人だもの、大丈夫よ」
 顔を何度か叩いてメイコは悪いモノを振り払うように勢い良く頭を振ると深く息を吸い吐き出した。
 ……うん。ミク様もこの出逢いは吉兆だって言ってたし、何よりもカイトさんの同僚だもの、悪い人じゃないわ。あんなに素敵でカッコイイ人なんだもん……カイトさん。
 ほんのり頬を赤く染めたメイコは恥ずかしそうに手ぬぐいを弄るとカイトの名前をそっと紡ぐとはっと周囲を見回した。
 誰も居ないことにほっと息を吐きメイコは目を瞠った。
 メイコの前方に彼が現れたのだ。
 冴えない顔色でどこか覚束無い足取りをしたカイトを見てメイコは慌てて乱れてもいない着物を直し髪を手櫛で整えると恥ずかしそうに俯いた。
 「……メイコさん」
 「……は、はい」
 抑揚に乏しい声に名を呼ばれてメイコがそわそわ落ち着かずに視線を泳がせると、唐突にカイトの腕に捕らえられた。
 そのまま彼はメイコを抱き寄せると肩先に頭を預けてくる。
 「きゃっ……そんな、カイトさん!……ダメです。だって……わたしたち、まだ……」
 「……すみません。厠について来てくれますか?」
 耳まで赤く染めて慌てたメイコが言うのを遮り彼はそんな事を言った。
 「………………はあ?」
 たっぷり間を置きメイコは聞き間違いかと間抜けな声を出す。
 「……だから……」
 ぽそぽそと呟く男に一縷の望みも砕かれてメイコはぐらぐらと目眩を覚えた。







 「……信じらんない。妖人が怖い? 何よ。それ!」
 前方の闇を見据えメイコはイライラと吐き捨てた。彼女の怒りを表すように獣の耳が総毛立っている。
 だんっと足を踏み鳴らしてメイコは空を仰いだ。
 ああ、何故ですか? こんな事って……。
 自分に微笑みかけてきた素敵だと思っていた男が、妖人が怖くて一人じゃ厠に行けない世にも情けない男だった事実は浮かれていたメイコを頂上から叩き落すのに充分だった。
 『……怖いものは怖いんだ。一歩歩けば妖人、妖人、妖人ばかりでっ……』
こんなトコ、怖くて一人で歩けないよ。
 情けない男の声が厠の中から聞こえるとメイコはぴきぴき血管が切れそうになる。
 「……アンタ! ココに何しに来たの!! 最低!! ……ああ、ちょっとでも良いと思ったわたしのときめきを返せ……」
 がくりと肩を落としてぼやくと肺から呼気を全て吐き出すほどに深く重い息を吐き出した。
 『……メイコさん? 何か言いました?』
 「だ——!! もういいでしょ! わたし、帰る!!」
 間の抜けた男の声に何かがぷつんと切れたメイコが男を置いて帰ろうと歩き出すと慌ててカイトが厠から飛び出して彼女に縋る。
 夜空にメイコとカイトの諍う声が響いていた。








 行灯の仄めく灯りが照らす室内。
 静寂に包まれた室内に男女の諍う声が微かに届く。
 「……ふ、ははっは……。楽しそうだな。……皆、上手くいきそうか」
 その声に耳を澄ましていた獅子顔の男は目元を和ませて笑い声を上げると隣で酌をしているミクを見た。
 獅子顔の男が持つ飯事のように小さい杯を酒で満たすミクの姿はまるで幼子のよう。
 「……どうでしょうか。人間と妖人、相容れない存在同士、上手くいくかなどわかりません」
 ひっそり息を吐き答えるミクに男はやれやれといった顔を向ける。
 「だからこそ、あの子らに、半妖の娘らに託すのだ。……軍人の方もお前の占が導き出した者たちだろう」
 「……確かにそうでございますが……」
 硬い口調を崩さないでミクは首肯した。確かに妖人省に配属された軍人たちもミクが軍から示された中から選び出した軍人たちで、そこからさらにミクが創り上げた術が組み込まれた籤で組み合わせたのだ。
 「なら、問題なかろう?」
 「私の術は相対的なモノしか視ておりません……」
 「ふ、ふっふ……ふはははっ……」
 ミクの言葉に男がさも愉快げに哄笑した。男の笑い声が室内を揺さぶるのをミクは男の笑いが治まるまで端座した。
 「……はっはっは。ミク……君は少し心配しすぎだ。あの子らも、君が守らなくてはならぬほど幼くは無いだろう」
 「お言葉ですが、御前様。我ら(大妖)からみればあの子らは赤子も同様。それなのに……」
 それなのに、我ら(妖人)はあの子ら(半妖の娘)に全てを託すしかない。その事実がミクの心に重く伸し掛る。
 顔を伏せるミクの手元に杯が現れる。顔を上げたミクの手に杯を持たせて男は微笑むと杯を酒で満たす。
 苦く笑うミクが一息に飲み干すと男が諭す。
 「……まったく。君は心配性だな。案ずるより産むが易しと言うだろう。あの子らなら大丈夫だ」
 「ですが……子を思わぬ親などおりません」
 毅然と男と瞳を合わせミクが言い切ると男はつと視線を屋外に、夜空に浮かぶ星月に向ける。
 「ああ、そうだな。……ならばこそ、我らは見守ろう……子の歩みを、な」













 「まったく!! 危うくダマされるとこだったわ。人間なんか!……あんたらも気をつけなさい!! ルカも、無理なら無理でさっさと……」
 昨夜と違い、怒りに頬を染め軍人批判をしているメイコを見るとルカとリンは首を傾げて囁きあった。
 「……どうされたんですか?」
 「昨日の夜までは上機嫌だったのにね」
 訳も分からないといった顔の二人に噛み付かんばかりにメイコが捲くし立てるとルカとリンは顔を見合わせ曖昧に微笑む。
 「んー、どうしたの?」
 ひょいと顔を出したミクが不思議そうにメイコらに視線を向けて尋ねてくるとメイコはきっと彼女を睨みつけると、顔を歪ませ側を通りすぎようとした。
 「……なんでもありませんっ!!」
 「ちょいと、お待ち。……これから軍人さんたちの歓迎も含め、みんなでお花見にでも出掛けましょ」
 立ち去ろうとするメイコの手を掴み止めたミクは少女たちに、にこりと笑いかけた。
 ミクの提案に少女らの間に戸惑いが走る。
 気にすることなくミクがてきぱきと話を進めるのに躊躇いがちにメイコが口を開こうとした時。
 「……では、とっておきのお重を出して来ないといけませんね」
 「じゃあ、料理もうんと豪勢なものにしないとね。 えっと……」
 ふわりと笑うルカにリンも笑み覗かせて料理の算段を始めるとメイコは口をへの字に歪めるとルカとリンの頭を小突いた。
 「……敷物、探してくるわ」
 仕方なそうに微笑み背を向けるメイコにミクがやれやれといった顔を向けて遠ざかっていく背を見送ると、ルカもまたミクとリンに断りを入れて重箱を出すために立ち去っていく。
 「……ミク様、いいの? ココでお花見じゃなくて、外でするんでしょ」
 「……ん?」
 ミクは真っ直ぐに自分を見つめるリンの頬を手で包みこむ。
 「……いいの?」
 柔らかく温かいミクの手。いつも自分たちを守ってくれていた温もりにリンは目を閉ざして繰り返した。
 「……不安? 心配しなくても……大丈夫よ。私たちはいつも側にいるわ……」
 どこまでも円やかで優しい声と温もりにリンは微かに震えて閉ざした目の端を濡らす。怖いのだ。突然手を離されて、まるで……見捨てられたように思えて、強がってみても捨てられるかもという恐怖は拭えなかった。だから、ミクの言葉に涙が零れてきた。
 泣くリンを抱き寄せて困ったようにミクが名を呼び懐紙で顔を濡らすものを拭うのを少女は甘えるように拭われるままになっていた。











 敷物を手に歩くメイコにカイトが話しかけてきた。
 「メイコさん、手伝いましょう」
 仏頂面で敷物を押し付けてくる少女に苦笑したカイトは自分を置いていくのではと思うほどに早足のメイコに簡単に並ぶ。
 「……ルカさんの事はがくぽから聞いたよ。何か出来る事はあるだろうか?」
 「……別に。アンタの場合、自分の妖人嫌いを直したら?」
 ははっと乾いた笑みを見せてカイトは首肯した。
 「……もちろん。そのつもりだよ。……女性がそこまで頑張るのに自分が逃げる理由にはいかないからね」
 ああ、そうですか。確かにルカは可愛いですからねー。
 けっとメイコはやさぐれた。ざわざわと騒ぐ心が落ち着かない。
 「メイコさん、がくぽは信用できるヤツだよ」
 メイコの態度を誤解して彼は安心させるように微笑んでくると何故か頬が熱くなる。
 「はっ……信じられないわね。人間の言葉なんて……」
 誤魔化すようにそっぽを向くメイコに男は困ったように笑みを浮かべると言った。
 「……確かに、いきなり全てを信じろなんて無理だろうね。……だから、少しずつ互いの事を理解し合えたらと思いますよ。…………ん? うわあっ!!」
 「メイコー! お花見だって、オイラたちも行っていいか?」
 突如、立ち止まったカイトの上に山のように降って来たのは小さな妖人の一群。様々な形状を持つ大きさも異なる様々な妖人たち。一匹は大した重量も無くても山と上から振られては逃げることも出来ずにカイトは妖人の山に埋もれた。
 「……アンタたち。別にいいわよ」
 メイコの許可に妖人たちは歓声を上げてぴょんぴょん走り去っていくと下敷きになっていた男がぴくりと動いた。
 「あ……生きてる」
 「死んでません! いいのですか! 連れて行って、何か悪さしたら……」
 ぽつりと呟いたメイコの言葉にがばりと起き上がって男は食って掛かる。
 「悪さするような妖力持ってないもの。やったとしても、せいぜい脅かすぐらいだし、常人には視えないし」
 事も無げに答えるメイコはそのまま落ちている敷物を拾い上げるとカイトに押し付けて歩き出した。後に思わず受け取ったカイトが呆然と立ち尽くしていた。









 
 倉の中でルカは大小様々な木箱に目を走らせた。
 「えっと……前に虫干しした時はこの辺りに……」
 検討を付けた上の棚に踏み台を使い木箱を選別する。大体の大きさを目安に木箱を幾つか下ろして中を改める。
 桜蒔絵の美しい細工の重箱を見付け出したルカは首を傾げる。これでは足りない。
 もう一つ、必要かと選び出していると倉の戸に人影が。
 顔を上げたルカは微かに息を呑む。




 息を呑み青くなる少女に心が奇妙に騒ぐのをがくぽは無視して話しかけた。努めて怖がらせないように。
 「……ルカ殿、君のことはミク殿から聞いた」
 「……あ。あ、あの……」
 怯えるように視線を彷徨わせる少女を前にがくぽはふとレンの言葉を思い出して膝を折る。
 「私で本当に良いのか?」
 「……はい」
 がくぽの問いに小さく首肯する少女にミクから話を聞いてからずっと考えていた事を口にした。
 「私はどうすればいい? どのように振舞えば良いか教えてくれ」
 微かに震えて俯く少女が驚きに目を瞠り顔を上げる。泣きそうに顔を歪ませて首を振る。
 「いえっ……いえっ……そんな事……」
 「……いや、言ってくれ。君を怯えさせたくなど無いのだ。……ルカ殿さえ良ければ私に守らせてくれないか?」
 震える少女の姿が憐れで、怯えた空色の瞳に心が酷く痛む。……そして、その少女を守りたいと強く想う。
 がくぽの言葉に少女の瞳が揺れる。
 「……怖がらないでくれ。私は……ルカ殿を傷つけたりはしない」
 「……すみません」
 目元を慌てて拭い謝る少女に首を振り僅かに目元を和ませたがくぽは言葉を重ねる。
 「謝る事は無い……私は近寄らぬ方が良いか? 近寄っても良いのならその距離を教えてくれ。……それを守る」
 怖がらせたく無いと強く想い、がくぽが少女に告げると少女の目が微かに煌めいたようにみえた。




 告げる言葉はどこまでも誠実で。向ける目も不器用に優しくて。嘘偽りなく曇りの無い彼の想いを視る。
 


 答を待つがくぽの前で少女の震えが小さくなったように見える。
 こわごわと誘われるようにゆっくり少女はがくぽに近付いて————止まる。
 手を伸ばしても届かない距離。
 それでも少女の表情と空色の瞳に浮かぶのは恐れや躊躇いと……何か。それが恐怖以外で信頼であって欲しいとがくぽは願う。
 少女と自分の距離を確認してがくぽは一つ頷いた。
 ルカは怯えながらもがくぽで良いのだと答えてくれた。ならば、自分は少女を守ろうとがくぽは心に誓った。
 「……これは持っていくのか?」
 「あ、はい。こちらとこちらはお花見に使いますから……」
 「ならば、後のものは上げてしまっても良いのか?」
 上の棚と床に置かれた幾つもの木箱とルカの足元に置かれた踏み台を見てがくぽは問いかけた。
 頷くルカに断り倉の中に足を踏み入れて木箱を上の棚に戻していく。
 「……すみません」
 「いや、構わない」
 短く答えたがくぽは足元の木箱を手に取ると外に向かう。
 「あ、あの……わたしの事はルカと呼んで下さい」
 「……わかった。ルカ」
 少女の言葉に足を止めてがくぽは目だけ少女に向けて名を呼ぶと微かに頬を染める少女を見てがくぽは僅かに口元に笑みを浮かべると歩き出す。
 「……ありがとうございます。がくぽ様」
 語尾を震わす少女が自分に深く頭を下げるのをがくぽは背中で見た。





 ルカの『目』に映るがくぽの『かたち』。それは『光輪』。
 日輪の如く輝いてルカを包み込み照らし出す『かたち』。
 
 躊躇いがちに差し伸ばした少女の手を取り男はその手に自分の手を重ねて包み込んだ瞬間。
 願わくば、重なる縁が途絶えること無いように……。


後書き
一応これでおしまいです。
この後は……気が向いたらになりますね。いつもと違う皆が新鮮でした。
by 瀬川 唯

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