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TOA・ボーカロイド中心の二次創作です
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ざくろパロ 『こい、ひらり』の続きです。

あれでおしまいの予定だったのですが、気づいたら書いていましたwww

妖人たちが思いの外、可愛くなってしまったので彼らにすごく気合が入っています。

それにしても寡黙な軍人がくぽは恐ろしい程にかっこ良すぎです。

よろしければ追記よりどうぞ

+ + + + + + + + + +

花の下にて


 「うほほ~い! 花見だ、花見だ!」
 きゃわきゃわ騒ぎたてる姿形の異なる大小様々な妖人らを引き連れて花見に向かう妖人省の面々。
 「こらっ! がちゃっ、ぐみ!! ……離れるなって言ってるでしょ!」
 動きまわる妖人を追い、緑色の体毛に覆われた蜥蜴に似た幼い妖人と緑色の髪に白い鳥の羽とくちばしを生やした幼い妖人が釣られて走りそうになるのを茶色の髪を短く切り揃えた少女が慌てて腕を掴み目線を合わせると叱りつけた。
 「まあ、まあ。メイコ……そう怒らなくてもいいんじゃない?」
 首を竦めて謝るがちゃとぐみの頭を撫でて金髪の短い髪をした少女が言うと二人は歓声を上げて飛びついてきた。
 「わーい! リン、やさしー!!」
 「うわっ……もう、こうしてやる!!」
 突然の衝撃によろけたリンは体勢を立て直すとしがみついている二人をそのままにぐるぐる円を描くように回りだした。
 騒ぐ妖人らを相手にしている少女らも人間では無くその頭に獣の耳を持つ、半妖。
 彼らを見る人間の目は冷たい。




 妖人省から外に出掛ける事はルカは滅多にしない。男性恐怖症と人間恐怖症の彼女には外は恐怖しか無い世界。
 それでもミクに誘わるままに外に出掛けたのは————




 騒ぐ妖人たちを追い掛け回すメイコの姿に桜色の髪を長く伸ばした少女は小さく微笑んでいたが何かに気付き顔を強ばらせた。
 もともと色の薄い少女の顔は今は白を通り越して青くなり、その細い体を震わせていた。
 自分(妖人)らを見る人間の目。
 その目に気付いたルカの歩みは徐々に皆から遅れだし、その目は地に落ちる。
 さわさわとルカを嫌悪と忌避の情が包み込む。
 「っ! ……!!」
 言葉は喉の奥で凍てつき開く口は音を発する事は無い。


 さわ。さわさわ……。

 ——妖人よ……嫌ね
 ——どうして、こんなトコロに……。

 ——けがわらしい

 さわさわ……さわさわ……さわさわさわ。

 息苦しさを覚え恐怖に震えるルカを拒絶する世界。
 前にいるはずの皆の姿も見失いルカは目の前が暗く沈み込んでいき、かくりと膝を付いた。





 「ルカ!」
 いつの間にか集団から離れたところにいる背の高い紫色の髪を頭頂で結った軍人が鋭い声を出すのを慌てて振り返った少女たちは目を瞠った。
 桜色の髪を長く伸ばした少女が離れた場所で膝を付いていた。少女がきつく耳を塞ぎ体を震わせているを見たメイコとリンは慌てて駆け出そうとした。
 が、その前に立ちはだかりすっと伸びやかな手を広げたのは少女らの庇護者である緑色の髪を両端で結った少女だった。
 「……ミク様!?」
 「……何で!?」
 言い募るメイコとリンの顔を見てミクは厳しい顔で首を振る。
 「……ダメよ。……行ってはダメ」
 ルカが怯えているのに行っては駄目だと言うミクをメイコは信じられないモノを見る目を向けた。
 「……どうしてっ」
 「……ルカ。こちらにいらっしゃいな」
 怒りに声を震わせ手のひらを握りこんでメイコがミクに呻くように詰め寄ると彼女は静かな、でも強い光を宿す目で詰め寄る少女を見て首を振るとうずくまるルカに向き直り告げた。


 告げるミクの声は静かに強く歌うように澄んでルカの暗闇に沈む世界に響く。
 その声に顔を上げたルカの顔は青く色を失い、その目には恐怖が色濃く空色を滲ませていた。


 「————っルカ!!」
 制止するミクの側をすり抜けてうずくまるルカに駆け寄ろうとしたリンの手を小柄な金髪の軍人が掴むのと同じように青い髪の軍人がメイコの手を掴み制止する。
 「何するのっ……放して!!」
 「リンさん、ダメです!!」
 ばっと掴むレンの手を振り払いリンは少年を睨みつけると声を荒らげた。
 「何で!」
 「……それで、行って、どうするんだ。……それじゃあ、何も変らないだろ!!」
 レンの瞳に一瞬苦渋の影が浮かび消えると少年は怒りに煌くリンの碧の瞳に怯むことなく真っ直ぐに少女の瞳を見据えた。
 「……何よ、それ……」
 「辛いのは……君たちだけでは無い」
 レンの言葉に少女らは抵抗を止めて目を見開き、カイトの諭すような言葉を受けて自分らに背を向けるミクの何かを堪えるように張り詰めている背に力なくうなだれた。
 
 


 うなだれるメイコが酷く頼りなく見えてカイトは少女の肩に手を置くと顔を上げた少女に微笑んだ。




 
 少女の様子がおかしいのにいち早く気づいたがくぽはうずくまる少女に近寄ろうとして、足を止めた。
 男が怖くて、人間が怖い……のだ、少女は。
 その事実ががくぽの足を止めた。
 怯えて震えているのに手を貸すことも、自分には出来ない。
 護りたいと想ってもどうにも出来ない事にがくぽは微かに悔しげな表情を浮かべて手のひらを握りこんだ。
 立ち尽くすがくぽの足元をするりと通る白い影。
 それはうずくまる少女に近づくと膝に手をかけて心配そうに顔を覗き込んだ。
 「……ルカー? どーした?」 
 真っ白な毛並みを金色が縁取る狐に似た妖人が新緑の萌える瞳を心配そうに向けてくる。
 膝に触れる温もりと見上げてくる新緑の萌える瞳、長く鋭い爪を持つ真っ白な前足がルカの頬に触れる。
 「……ましろ」
 凍てついていたルカの喉から言葉が紡がれると名を呼ばれた妖人はんっと首を傾げた。
 「ルカー。大丈夫か?」
 ぴょんっと真っ白な妖人を踏み台にしてころんと丸い胴体にちょこんと小さな角を生やしたちんまりとした妖人がルカの肩に飛び乗る。
 「ルーカーっ! お花見、行こうぜ」
 ぴょんっと同じように現れた三つ目の妖人がもう片方の肩に乗る。
 「だー!! お前らっ、人を踏み台にするな!!」
 怒気もあらわにくわっと牙を剥く真っ白な妖人にきゃたきゃた楽しそうな声を上げて笑う。
 「いーじゃんかよー!」
 なー、と頷き合う二匹にぽかんと口を開けていた真っ白な妖人は息を吐くとルカに目を戻した。
 「大丈夫だ。怖くねーよ。皆、一緒だ」
 「そーだ!! 皆、一緒!!」
 にかっと笑う真っ白な妖人の言葉に続く異口同音の大合唱。いつの間にかルカの周りを数多の妖人らが囲んでいた。まるで少女を守るように。
 「……みんな……いっしょ……」
 「おうっ!! 皆、一緒!!」
 か細いルカの声に彼女を囲む妖人らが力強く同意する。
 肩に、膝にかかる重みと温もりにルカの瞳に光が戻ると涙が零れ落ちた。
 「な、泣くなよ。ルカ。……たっく、しょうがねーなー」
 はらはらと涙を零すルカに困ったように真っ白な妖人が器用に前足で涙を拭う。小さな角の生えた妖人も三つ目の妖人も囲む妖人も困り顔になりざわつく。


 不意に目の前に差し出されたのは白いハンカチ。
 「使うといい」
 耳に届くのは低く透る声。
 おずおずと顔を上げたルカを見る蒼い瞳は柔らかく、口元に微かな笑みを浮かべて膝を折ったがくぽは少女を待つ。
 「おっ! 気がきくねー。兄ちゃん」
 がくぽの差し出すハンカチにいち早く気付いた真っ白な妖人は嬉々としてハンカチを掴むと器用に前足でハンカチを持ち直して涙で濡れたルカの頬を拭う。
 「……ほら。もう大丈夫だろ、ん? ……おいおい、兄ちゃん。手ぐらい貸せよなー」
 妖人ははたはた揺れる真っ白な尾で少女を宥めるように撫でながら丁寧に涙を拭うと一転してがくぽに向かい生意気な口を叩く。
 微かに瞬いたがくぽは妖人の言葉に従う形でルカに手を差し伸べた。
 「立てるか?」
 「……あ。……はい」
 気遣う男の言葉に惹かれるようにルカが白い手袋に包まれた男の手にそろそろと自分の手を重ねると男はいとも簡単に片手のみでルカを立ち上がらせた。
 事も無げな顔をする男の顔をルカは呆けたように見つめる。その足元で真っ白な妖人がかいがいしくルカの着物を払っている。
 「おお~。さっすが軍人!! すごい、すごい。……な? ルカ、立てただろ?」
 感心した顔の蝙蝠に似た妖人が男の肩に飛び移ると男は微かに苦笑して少女に気遣わしげな目を向けると握っていた少女の手を放して一歩下がる。
 男が離れた事にほっとするのとどこか寂しく想うルカは心配そうに名を呼び裾を引く真っ白な妖人を腕に抱くと男に頭を下げた。
 「……がくぽ様、ありがとうございます。……ご迷惑おかけしました」
 「いや、迷惑では無い。……大丈夫か?」
 向ける言葉も目も優しく、怯えるルカを包むようだ。
 もう一度ルカは自分の周りを見る。
 微弱な妖力しか持たないが気の良い数多の妖人らの無邪気な、だが心配そうな顔と少し離れた距離に立ち気遣わしげな人間の男とさらに離れた距離から案じている仲間の姿にルカはゆっくりと息を吸い吐き出すと腕の中の真っ白な妖人の頭を撫でて歩き出した。








 妖人らが少女に何事かを語りかけて軍人が少女を助け起こすのを離れたところから見守っていたカイトらは詰めていた息を吐くと少女らを掴んでいた手を放した。
 こちらに歩いて来る少女に向かいメイコらが駆け出すのを今度はミクも止めることは無かった。
 駆けていったメイコらはルカに近づくとそれぞれルカの腕に自分の腕を絡めた。
 「ほらっ……ルカ! 行きましょ!」
 「そうだよ! せっかくお弁当も豪勢にしたんだよ! 楽しまないとね」
 「おお~。豪勢な弁当!! ミクの姐さんっ、酒はあるよな!!」
 「……当然。抜かりはないわよ」
 「さっすが姐さん!!」
 ミクがにやりと笑みを浮かべて答えるのを見てよりいっそう妖人たちはきゃらきゃら騒ぎ立てる。
 少女を取り囲み守るように道を歩く姿にカイトは柔らかく笑みを浮かべると意外なモノを見た。
 珍しい。あのがくぽが、無表情、無愛想、無駄に怖いといわれる男が珍しくも微かに柔らかい笑みを口元に浮かべていた。
 その視線の先の口々に様々なことを言って盛り上がっている妖人らの中心で微かに笑みを浮かべている少女の姿を見てカイトは瞬いた。
 視線に気付いたがくぽがカイトに目を移すと何でもないと首を振ってみせると、小さく頷き目を逸らす。
 「おーい!! 何してんの!?」
 「はやく、いらっしゃい!!」
 いつの間にか少女らと距離が出来ていた。
 呼びかける声に今行くと、答えてカイトらは顔を見合わせ先を急いだ。













 「わあっ!!」
 「……スゴい!!」
 一面の桜に揃って歓声を上げて一行は花見の場所選びに歩き出した。
 今が盛りの桜を楽しみに数多の人間の中を泳ぐように進む少女らを見る目は冷たい。
 隠しもしない嫌悪の目と囁きにルカは腕の中の真っ白な妖人をきつく抱き締めた。妖人ははたはたと真っ白な尾を揺らし安心させるように少女をつぶらな新緑の瞳で見上げる。
 と、唐突に少女らを無遠慮に見ていた人間が視線を逸らし歩き去る。
 その行動を訝しげにみたカイトは視線を巡らし納得した。
 隣にいたはずのがくぽが少女らを守るように移動し、無遠慮な視線を向けてくる人間らを睨みつけていた。
 それは確かに怖いと苦笑したカイトはレンの名を呼び目配せして自分もがくぽにならった。
 「……何よ?」
 「いや、人が多いですから……自分たちが盾になります」
 胡乱気なメイコに笑みを浮かべてカイトが答えると周りの妖人らがはやし立てる。
 「おっ気がきくねー。 オイラたちか弱いからなー」
 「……ふーん。まあ……ありがと」
 「……何か言いました?」
 か弱い妖人らの騒ぎに紛れて呟いたメイコの言葉はカイトの耳には届くことは無かった。
 「べっつにー。……あら? 曇ってきた……降るのかしら?」
 男からそっぽむいたメイコは翳る日差しに眉を寄せて手のひらを上にして天気を伺った。
 「せっかくここまで来たのに……」
 ゴロゴロと遠く聞こえる雷鳴にリンは肩を落として土を蹴る。

 と、暗転した空から降る一条の雷が閃光と轟音を伴って地に落ちた。

 とっさに目を閉じて閃光から目を庇ったカイトらの耳に轟と響く獣の雄叫び。
 恐る恐る目を開けたカイトは引き攣り後ずさった。
 「雷獣!?」
 爛々と輝く金の瞳。四肢には鋭く長い爪。鋭い牙を剥き口元から糸のようなヨダレを垂らす白銀の毛並みを持つ犬に似た異形の姿に少女が色めき立つ。
 雷獣は地を前足で蹴るとまた、轟と吠えた。その白銀の体躯を小さな稲妻が走り薄暗い中でその姿を浮かび上がらせていた。
 ビリビリと鼓膜を、いや全身を叩くように響く咆哮を受けてカイトはその場にへたり込む。
 「う、うわああ————!! こっちに来ないでくれ!!」
 青くなりがくがく震えて頭を抱えて叫ぶカイトの姿に視線が集中する。
 「……か、カイトさん?」
 戸惑ったレンの声も、さざ波のように広がる周囲の困惑した気配に気付くこと無くカイトは、ただ恐怖に喘いだ。
 「……ちっ」
 恐怖に喘ぐカイト目がけて雷獣は地を蹴り走る。
 それを見たがくぽが駈け出した。軍刀を鞘走りながらカイトの前に滑りこむよりも前にふわりと茶色の髪の少女がカイトの前に降り立った。
 「邪魔よ!!」
 「うわっ!」
 「……ぐっ」
 メイコはカイトの腕を掴み無理矢理立ち上がらせると一本背負いの要領でがくぽの方に投げ飛ばし自身も地に転がるとその場を雷獣が突風と共に駆け抜けていった。
 怯えるカイトの姿に自然と体が動いていた。元々、メイコは困っている人をほかっとけない、面倒見の良い娘なのだ。
 勢い良くカイトの体ががくぽにぶつかり鈍い音をたてて止まる。衝撃で息が詰まりがくぽはその場に膝を付いた。
 「……あらあら乱暴ね~。まあいいわ。……軍人さんたちは今回は見学ということで、あなたたち、やっちゃいなさい」
 がくぽらの前に滑り出たミクがにこりと笑う。いつの間にか少女らとの堺に不可視の壁が出来ていた。
 





 ぱっと跳ね起きてメイコは雷獣と睨み合う。
 「リン、ルカ!!」
 「はいはーい」
 「……いけます」
 姿勢を低くし、今にも飛びかかろうと唸る雷獣を前に少女らが呼吸を整え、ぽんっと手を打った。
 少女らの口から紡がれるは天上の調べ。
 澄んだ声が重なり厳かに玲瓏と響き、見事な調和を生み出した。
 つうっと開かれた少女らの手に固く蕾を付けた枝が握られていた。枝を握る手が弧を描くように動くと蕾が一斉に綻び、咲き誇る。
 花咲く枝を手に少女らが謡いながら舞うように枝を握る手を動かすと緋色、黄色、桜色の花片が風に舞う。
 「……ぐぅぅぅ」
 雷獣が低く唸り牙を剥く。
 緋色の花咲く枝を勢い良くメイコが振り下ろすと周囲が緋色に染まった。
 花片が風に舞い踊る中、メイコと雷獣は地を蹴った。
 自分に向かい疾走する雷獣の間合いをはかりながら走るメイコの手には柄から刃にいたるまで漆黒の小刀があった。
 雷獣とぶつかる寸前、メイコは高く跳躍し背中を蹴りつけ、背後に着陸した。
 轟と猛る雷獣が雷を呼ぶ。メイコは目を細めて剣呑な笑みを浮かべる。
 リンとルカはよどみなく謡いながらその花咲く枝で流れるように大きく弧を描く。枝から黄色と桜色の花片が舞い散る。
 雷獣に向かいゆっくり歩くメイコを目指して天から落ちる雷は、不可視の壁に阻まれメイコを撃つことは無い。
 ひらひらと花片が舞う中を空から無数の雷が撃ち落されるがそのどれもが不可視の壁に阻まれ四散する。
 憤る雷獣が牙を剥き唸り姿勢を低くし、メイコに突進しようとしたが金縛りにあったかのように身動きをとることが出来ずに四肢を震わせ咆哮した。雷獣を囲むようにいつの間にか舞い踊っていた花片が降り積もっていた。
 すうっと小刀を目線より上に掲げてメイコは猛り狂う雷獣に一息に振り下ろした。









 
 「あっそーれ! ほいさっ……よいしょ!」
 賑やかに囃す声に合わせて真っ白な妖人が飛び上がる。くるくる回転する妖人は最高高度で器用に身体を斜めに捻ると後方に着地し、またぴょんと宙を舞い華麗な曲芸を披露した。
 「よし、オイラたちも行くぞー!!」
 傍で見ていた妖人らが混ざり一緒になって飛び跳ねだすと真っ白な妖人は彼らを器用に回転して飛び越えたりその下をくぐってみせた。
 満開の桜の下で妖人の曲芸を見る。空を仰げば眩しい日差し。
 何か間違っているような気がして見ているレンと違い少女らは拍手を惜しまない。
 「どうよ!!」
 少女らの賛辞に気を良くした妖人は気のない拍手をしていたレンにどんと迫る。
 「……芸も出来るなど、素晴らしいですね」
 「だろー。よし、よし。……やれ」
 「はい?」
 「おれたちはやったから、次は軍人たちの番だろ? 出来ないのか? おまえ、ちっこいし……」
 妖人らは勝手なことを口にしながらレンの体をぺたぺたと触ると次から次に体によじ登り、ついにレンを潰した。
 「お、重い」
 妖人の山の下から呻くレンの姿にリンが声をたてて笑い出した。
 「……見てないでどうにかしてくださいっ」
 「ちゃんと飯食えよ。魚とか野菜。好き嫌いせずにな」
 「そうだぞ、ちっこいの。旦那ぐらいは無理でもでかいのや青いのぐらいなー」
 ぷちと何かが切れた。
 「ちっこい、ちっこい言うなー!! 俺だって同年代のヤツらとなら、普通にある!!」
 「おおー。切れた」
 妖人らが上からレンを覗き込み言いたい放題言っていると下敷きになったレンがくわっと叫ぶといっそうリンが楽しそうに笑った。








 楽しそうに笑い声が響く中、カイトは独り、暗い顔をしていた。
 公衆の面前で、犯してしまったあまりにも情けない醜態にため息ばかり零して俯く彼は花見どころでは無かった。
 何度目かのため息を零そうとしたカイトの前に料理の乗った皿が現れた。
 不思議そうに皿を眺めていたカイトに不機嫌そうな声がかかる。
 「……食べなさい。せっかく、皆が作ったのよ」
 「……ありがとう」
 むっつりと皿を押し付けてくるメイコから皿を受け取ったカイトはまた、ため息を零した。
 「……あのさ。そんなに気にしなくてもいいんじゃない? 隠し必要無くなったわけだし……無理しなくてもいい訳だから……」
 視線を彷徨わせながらどこか赤い顔したメイコが懸命に言葉を紡ぐ。
 どうやら落ち込んでいる自分を慰めているようだ。上手く言葉が出てこずに眉を寄せて話す少女にカイトは自然と笑みを浮かべた。
 「……メイコさん。ありがとう」
 きょとんとカイトの顔をまじまじと見たメイコは彼の手の中の皿を指差し上ずった声を出した。
 「……っ! わかったら、食べなさい!!」
 肩を竦めてくすくすと笑いながらカイトは添えられていた箸を手にした。
 「メイコさん。……桜、綺麗ですね」
 「……そうね」







 「よろしいかしら?」
 「どうぞ」
 がくぽの隣にやってきたミクは銚子をがくぽに差し出した。それを見たがくぽは無言で杯を差し出すとミクは杯を酒で満たして、がくぽの視線の先を見た。
 「先程は、ありがとうございます」
 「私は何もしてません。あの者たちでしょう」
 見つめる先には妖人たちの芸を見ている桜色の髪の少女。
 護りたいと想っても何も出来ない自分に内心歯噛みしながらもがくぽは淡々と言葉を返す。
 くすりとミクは笑みを零した。
 「……いえ。あの子たちだけでは無理だったでしょう。貴方のおかげです」
 気休めかもしれないミクの言葉に、少しだけ胸が軽くなったがくぽはふっと息を吐きミクに向き直り、銚子を手に持つとミクに差し出した。
 杯の酒を飲み干してミクが視線を流す。
 視線の先には桜の花片が舞う中で真っ白な妖人が桜色の髪の少女に話しかけて笑わせていた。
 少女の笑顔をがくぽは目を細めて見つめる。その眼差しはとても、優しい。
 「……綺麗ですね」
 「はい」


後書き
まあ、男性恐怖症で人間恐怖症の子を連れていけばこうなるわな……と前のを書き上げてから気付きました。
なので、今回の話はそれの補足と言う事でwww
それにしても妖人たちが勝手に動き回ること、動き回ること……。
そのうちに彼らが主役で話ができそうなほどに自己主張してくれましたwww
by 瀬川 唯

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