チーグルの森の片隅に小さな家が建った。誰にも気づかれずに、人目に付きにくい場所に建てられたその家は屋根も壁も歪んでいて、窓には申し訳程度に木戸がつけられている。地震が来たらつぶれてしまいそうなその家は、いつ建てられたのかすら、人々はわからなかった。
その家に彼らが気づいたのはたまたまだった。最近になって、盗賊家業を再開した漆黒の翼が、この森に出入りしているという情報を得たのだ。その為、顔見知りという事でなんとなく自分達にお鉢が回ってきたのだ。
「だからって、別にナタリアやティアまで来なくて良かったんだけどな……」
「まあ。まるで同行してはいけないみたい。私達だって漆黒の翼が気になるのですわよ? 」
そう言いつつ、インゴベルトの名代として来ていた王女は肩をすくめる。その傍らには、今では再誕したユリアと崇拝されているティアの姿もある。
「そうよ、それに譜業が動きにくくなっているから、彼らの事は気になっていたもの」
そんな会話をしながら、とりあえずチーグルの長老に話を聞く為、歩みを進めていたのだが。一本道とだった場所に見覚えの無い獣道が新しく出来ていた。
最初にそれに気づいたのは、やはりと言うかジェイドだった。
もしかしたら、この先に潜伏しているかもしれない。
そんな疑惑が捨てきれず、その道を進んでいった。
辿りついた場所は、拓けた空間で、その問題の家はこじんまりとした様子で存在した。
手入れされた田畑に洗濯した衣服が干してある、歪な窓からは明かりが洩れている。
「誰かいるのか?」
「その様ですね、誰でしょうねぇ。こんな辺鄙な場所に家を自力で建てるお馬鹿さんは」
家に近づくとますます、その家のボロボロ感が際立って見える。
まず、屋根は隙間だらけで雨が降れば雨漏りだらけだろう。その上、窓はガラスが入っていない状態で歪んでいる。ドアや壁も同様だった。
「ひどいな……」
そう、ガイが感想を漏らしても仕方ないほどに……まあ、ぼろっぼろな家だった。
「でも、なんだか……あたたかな感じがするわ」
ティアの言葉にナタリアも同様に頷く。女性達はどうやらこの家と呼ぶには、はばかる建物に感じるものがあるようで、和やかな表情すら浮かべてみている。
ジェイドは微かに微笑んでから、その家の戸(歪んで開くか大いに疑問だ)を静かにノックしたのだ。
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