かくして少女は失恋する
ぱたぱたと軽い足音を立ててナタリアは廊下を小走りで駆け抜けていた。
彼女が目指す先には愛しい婚約者のアッシュが宿泊している。こんな夜更けに、しかも湯浴みを互いに済ませていると解る時間に異性の部屋に訪れるのは、マナーや淑女として問題のある行動でも、ナタリアは彼と二人だけで話したかった。
最近、何故かアッシュは二人だけで話してくれなくなった。
(ヴァンのこともありますし、そんな余裕が無いのでしょうね)
そんな事を考えながら、ナタリアは片手に昼間ティアやアニスと買い求めた甘い甘い砂糖菓子を持ってアッシュの部屋を目指した。
ようやく辿りつき、慌てて身だしなみを整える。掌くらいに乗る小さな手鏡は子供の頃にアッシュから貰った宝ものだ。
(アッシュは覚えていて、下さってるかしら? )
扉に三回ノックを行う。しかし、返事が無い。もう一度同じ動作を行うも、返答が得られず。ナタリアは小鳥のように可憐な仕草で首を傾げる。
おかしい。
たしか、先ほど宿の主人に聞いた時には部屋にいると返答を受けたのに……。もしかしてもう寝てしまったのかもしれない。
念のため、はしたないとは理解しつつもドアノブに手をかける。寝ているかもしれないことを頭に入れてゆっくりと扉を開く、そこには……。
ベットの上にアッシュはいた。しかし、寝ているわけではなかった。
同じベットに、誰かいる。
半裸になったアッシュはその人物を掻き抱き、思うままに蹂躙していたのだ。
「あ……あっしゅ?」
小さく名前を呼んでも、行為に溺れる二人は気づかない。否、気づいていたとしても害意が無ければ捨て置いているのかもしれない。
ぽとりと、手に持っていた砂糖菓子が落ちる。そのまま、酷く裏切られた様な衝撃から立ち直れず、ナタリアはその場を後にするしか出来なかった。
ちらりと、ドアの向こうに目をやるが先ほどまでいた少女はその姿を消していた。
首の後にまわされた腕を掴み、強引に外す。
「あっしゅ? な……に?」
「がっつくな。まだこれからだろう? 」
そう耳元に囁くと、ルークは胸の下でそのしなやかな身体をくねらせる。
繋がった場所からは強烈な悦楽を伝えてくる。
後々、面倒があるかもしれないが、正直なところ、下世話かもしれないが限界だった。
「……っ、今日は寝れると思うなよ。ルーク」
耳元に再び意地悪く囁くと、この先とその後の事を期待したのか桃色の頬がさらに朱に染まる。羞恥を訴える手が背中を叩く……。
「あっしゅのすけべ」
「言ってろ、屑。てめぇだって人のこと言えるか」
それは……と言い返す言葉は、アッシュの動きで言葉にならず。次第にルークの声は嬌声のみに変わっていく。
「愛してる。ルーク」
続く
あれ、続く?
おかしいなこれ短編のはず……。