ふーみんさんのステキながくルカ、カバー曲【二人静】に心惹かれて原作が気になってしまい、観てしまったのが下
あまりにも破壊力抜群で思わず原作漫画をまとめてカートに突っ込みぽちりそうになりました。
ここは落ち着けとしばし考え……数時間後にはお買い上げ。
久しぶりに大人買いをしてしまいました。
それで後は滾るままにボカロで妄想しそれを書いてました。
よろしければ追記よりどうぞ
こい、ひらり
「だからっ……どうしてですか!?」
「何度も言ったでしょ。メイコ」
ぽんと煙管を操り緑の髪を両端で結った少女は冷めた目を茶色の髪を短く切り揃えた少女に向ける。
「アンタだけよ。反対しているのは」
「納得いきません!! 人間と手を組むのは仕方ないとして、どうして人間が一緒にココで、暮らす必要があるんですか!?」
「あら~。一緒のほうが行動も取りやすくなるし、なによりも共同生活を送ることによって連帯感が生まれるし……」
今にも噛み付きそうなメイコの剣幕に少女はゆったりと首を傾げて利点を指折り数え始めた。
「ミク!!」
声を荒げるメイコの頭には獣の耳が付いていた。その耳が飾り物では無い事はピクピクと動くことからも明らかだ。
この屋敷に住む者は全て妖人。あやかし、妖怪といわれる者たちだ。
文明開化といわれ長く続いた江戸に変わり明治と人間の世が移り変わるとその影響は妖人にも訪れた。
西洋思想のもとに動き出した人の世に住むべき地を奪われ行き場を失くしたりして人の世が移り変わろうとも変わることの無かった妖人たちの世にも暗雲をもたらした。変わっていく世に抗うかのように揉め事を起こす者の数は増える一方で妖人たちだけで片付ることが難しくなってきていた。
妖人と人間。双方の話し合いのもと、妖人と人間が歩み寄り力を合わせて帝国陸軍に設立される機関、妖人省で問題解決を図る事となった。
その為にメイコは帝国陸軍の軍人と共同生活を送るハメになってしまった……。
ぎりと強く手のひらを握りこんでメイコは笑ってはぐらかすミクに低く呻くように詰め寄る。
「……ルカは? アンタ、ルカの事を分かっていてやってんでしょ?」
「……あの子をダシに使うのは良くないわね~。ルカなら構わないって言ってたわよ? それに……この出逢いは吉兆よ。貴方達にとって」
ちゃんと考える時間もあげたし、本人も熟考した上で了承したみたいよ。
「っ!!」
唇が切れて血が滲みそうなほどに噛み締めてメイコはミクを睨みつける。強い光を宿して炯々と瞳が物騒な色に煌く。
激昂するメイコを素通りしてミクの瞳は彼方へ向かう。
温かく柔らかい瞳を向けるミクの先を理解したメイコは責める言葉を飲み込むとミクに背を向けた。
「あら、どこいくの?」
「……ルカのところです」
むっつりと答えるメイコにミクはひらひらと手を振り送り出した。
「玄関に廊下……座敷にお風呂と……」
獣の耳が付いた金髪の少女が指折り数えるの聞きながら階段を上る獣の耳を持つ桜色の髪の少女が顔を難しくしていた。
「……うん。後はお部屋をやれば全てかな」
桜色の髪の少女の言葉に明るく笑った金髪の少女は預けていた道具を引き取ると足取りも軽やかに残りの階段を上がっていく。
「ルカさー……無理してない?」
金髪の少女の問いかけにルカは足を止めて首を傾げる。
少女の声は明るいものだがどこか硬いものを含んでいた。
「……リンさん?」
「……人間の男の人」
短く告げるリンの言葉の意味に気付いたルカはふわりと微笑んでみせた。
「……大丈夫です。ありがとうございます」
ルカの微笑に顔を歪ませたリンは真っ向から反論した。
「大丈夫じゃないでしょ! 男性恐怖症なのに!」
幼い頃の体験からルカは酷く人間を特に男性を苦手としていた。恐れているといってもよいだろう。男性に怯えて震える姿を知っているリンの目からは無理をしているふうにしか見えなかった。
「無理なら外してもらえたのにどうして受けたの!?」
ルカが嫌だと言えばミクは彼女を外すなり、なんだかの手段を講じただろう。それなのに……彼女は——
真剣に自分を案じてくれているリンにルカはゆっくりと言葉をごまかすことも飾ることもしないで応えた。
「……今も怖いです。だけど……大丈夫だと、わかるのです。だから、それを信じてみようと思ったのです」
リンに応えながらルカは顔を伏せるとミクに聞かされた時のことを思い出した。
それを聞いたとき思わずルカは意識が遠のきかけて考えるだけで震えが止まらずにいた。だが……その場で断ることはミクの表情とめまぐるしく流れて変わる情勢に出来ずに悩み苦しむルカに大丈夫だと視せたモノ。
それは——ルカの『目』。
「ルカ……。視えたの?」
ルカの『目』は真偽を見抜き本質を視る。リンもその『目』に助けられた事のある力。
「微かにですが」
顔をあげたルカはしっかりとリンの目を見て首肯した。強い意志を宿した空色の瞳にリンは肩の力を抜いた。
誰が何を言おうとルカは決めたことを守るだろうと分かる。
「決めたんだね。なら、いいよ。…………でも知らないよ? その軍人さんたちが筋骨隆々で荒々しい人でも……」
リンが言い終わる前にすうっと血の気を無くしたルカがふらりとよろめき階段から落ちそうになる。
ルカの姿を探してメイコはミクの部屋から順に心当たりを一つ一つ当たってみた。
台所、ルカの部屋を覗いて見たが見当たらず首を傾げて歩いていたメイコの聴覚が微かな怒声を捉えた。
「……リン?」
声の主に気付いたメイコはリンに訊けばいいと思い彼女の声の聞こえてきた方へ足を向ける。
階段を上がっていくとリンの他に目当ての桜色の髪の少女の姿もあった。
幸いとばかりに声をかけようとして、出来なかった。
強ばった表情でリンが畳み掛けるようにルカに迫ると彼女は静かに、ゆっくりと言葉を紡いだ。
思わず息を殺し聞き耳をたてていたメイコはルカの言葉にほろ苦い笑みを浮かべた。
ああいう子なのだ。ルカという少女は……。がむしゃらに強いというわけでもないが、しなやかに強いのだ。
改めて認識してメイコは自分は少し神経質になりすぎていたのだと息を吐いているとリンの言葉にルカがよろめき落ちるのを見た。
「あのバカっ」
舌打ちをしてメイコは残りの段を一息に駆け上がると慌てたリンが駆け寄るよりも早く、背後からルカの体を支える。
「メイコ!」
助かったとリンが駆け寄るとルカの怪我の有無をぱたぱたと確認する。
「怪我は……無いね。良かった~」
「変なコト言うからでしょ? ルカ、平気?」
血の気の無い顔でぎこちなく頷くルカの頭を撫でてメイコは笑う。
「まあ、部屋は離れているしね。……ダメだったら女装でもしてもらいましょ?」
「……筋骨隆々の方にですか?」
片目を閉じて冗談めかして言うメイコにルカが目を丸くして言うとメイコはリンと一緒になって笑い声をあげた。
「ほら、手伝うからぱっぱと済ませましょ。後は?」
「あ、使っていただくお部屋を整えればお終いです」
足取りも軽やかに三人は階段を上がり部屋に向かった。
由緒正しき帝国軍人の家に生まれて自分も帝国陸軍の軍人として出世街道にいたはずのカイトはその日、召集された陸軍司令部で同期のがくぽ、レンと共にある指令を受けた。足取りも重く司令室を出たカイトは叫びたい衝動を必死で堪えた。
「妖人省か……どんな所でしょうね。カイトさん?」
「……一歩足を踏み入れた瞬間に頭からぼりぼり……」
話しかけてくるレンに気付いた様子もなくカイトがぶつぶつと口の中で呟いているとその頭をがくぽが叩いた。
「真に受けるな。……からかっているだけだろう」
いきなりの衝撃にカイトが頭を押さえてがくぽを睨むとレンが面白そうな口調で話しかけてきた。
「へ~。カイトさん。信じたんですか?」
「……そんな事があるはずないだろう。いやだな、レン君」
急にしゃきっとしたカイトがレンに爽やかに笑いかけるのをがくぽはやれやれと呆れたように息を吐いた。
「……ですよね。まあ、問題が起きたら困るのは向こうですしね。あちら(妖人)さんの最後の手段といったところでしょうか」
肩を回して軽く言うレンの顔をまじまじとカイトは見た。
「レン。……言葉を慎め。先に境界を犯したのは我ら(人間)の方だろう」
「失礼しました」
鋭い眼差しを向けてくるがくぽにレンは背筋を正し、謝罪すると彼は分かれば良いと頷いてカイトを見た。
「カイト、げに恐ろしきは人間の方だ」
がくぽの含む物言いにカイトは乾いた笑い声をあげて、足早に歩き出した。
妖人省に赴いたカイトらを出迎えた輝く緑の髪も麗しい少女はにこやかに微笑みミクと名乗り奥へと誘う。
「それじゃあ、まずは自己紹介ね。……メイコ、貴方からなさい」
向かい合うように並ぶ男女を見てミクはにこりと笑った。
茶色の髪を短く切り揃えた強い光を宿す瞳の少女が一歩前に出て挑むように見据えてくる。
「……メイコです」
短くメイコと名乗った少女は咲き誇る花のようで強い光を宿す瞳もまた少女を気高く見せた。
「……ルカと申します」
隣に並ぶ少女の傍からルカと名乗った桜色の髪の少女は咲き初めの花のようで儚げな雰囲気を持ち庇護欲を掻き立てられる。
「リンです。よろしく!」
一歩前に出てリンと名乗った金髪の少女の笑顔は花が笑むようでお転婆そうな雰囲気が明るい笑顔に似合っていた。
そう、少女たちはとても美しい。獣の耳を持つ以外は人間と何も変わらない。
カイトは一つ頷き自分に言い聞かせた。あれは飾りだと何度も。
「初めまして、美しいお嬢さん方。私は帝国陸軍少尉、始音カイトです。以後お見知りおきを……」
進みでて洗練された所作で少女たちの前で腰を折ったカイトはとびっきりの笑みを湛えて少女たちに笑いかけた。
「っ!!!」
メイコは自分のすぐ近くで洗練されたカイトの挨拶と笑みを見た瞬間にかあっと頬が赤くなるのを自覚した。熱くなる顔と激しく打ち付ける動悸を誤魔化すように目の前の男を睨みつけると男は小さく声を発して何故か引き攣った顔をして後ずさった。
「あら~。どうかしました?」
「……い、いえ。少し……あまりにも可憐な方々ばかりで目眩が……」
ミクの問いかけに男が何でもないと答えて顔を伏せる。
「ねえ、お兄さん、ぐんじんさん? きんこつりゅうりゅうしてないよ」
「あら~おきもの、にあいそうですね~」
利発そうな瞳を持つ、全身を柔らかそうな緑の体毛に覆われた蜥蜴に似た幼い妖人と緑色の髪に白い鳥の羽とくちばしを生やした幼い妖人が 好奇心にきらきらと瞳を輝かせてカイトの足元にまとわりついていた。
「うわっ!」
ぎくしゃくと足元を確認したカイトは短く叫び後ずさりぱくぱくと口を開いた。
案の定といえるカイトの姿に息を吐くとがくぽは進み出たてカイトを後ろに追いやる。
「同じく、帝国陸軍少尉、神威がくぽだ」
ほっとした顔のカイトが目で礼を言って来るのを視界の端に捉えてひっそりと息を吐いた。
「同じく、帝国陸軍少尉の鏡音レンです。頼りなく見えますがこれでも史上最年少で少尉になったんですよ」
人好きのする笑みを浮かべてレンは一歩前に出て名乗ると金髪の少女がしげしげと上から下まで見回して言った。
「……やっぱり、似てるね。君」
それはレンも思っていた。赤の他人でここまで似ていることは滅多にないだろう。
パンパンと手を叩いたミクは注目を集めるとどこからともなく箱を取り出した。
「はーい、注目! 組み合わせは籤で決めるから引いてね~」
その言葉にカイトは目を見開いた。がくぽもレンも戸惑った顔をしている。
「あ、あの……そんな重大なことを籤で決めるのですか?」
「……レン君。決められたことだよ。大人しく籤を引こう」
レンの肩に手を置きカイトはレンの疑問を封じるとミクが持つ箱に手を入れた。
「全員引いたわね~。ルカ、貴方は何?」
ミクの言葉に少女たちの間に何かがざっと流れた。
「……三角です」
メイコがリンと自分の手の中の籤を確認してきっとカイトたちを見た。
「……三角は誰?」
低く剣呑に訊いてくる少女にカイトは慌てて籤を確認して首を振る。
「私だ」
三角の籤を手したがくぽに少女たちの視線が集中する。
ルカの目がゆっくりとがくぽを捉えると少女たちは緊張感を高める。息苦しさを覚えるほど重い空気はルカが動いた時、ピンと張り詰めた。
周囲が見えていないかのようにルカはメイコの側を離れるとがくぽの前に立つ。
痛いほどに張り詰めた空気の中、がくぽは少女の空色の瞳に吸い込まれるよな錯覚を覚えた。
深く、澄み切った空の色が全てを見透すようだ。
居心地悪くがくぽが微かに身じろぐのと同時にふうと息を吐いた少女が緊張のためか血の気の薄い顔色と震えながらもはっきりとした声を出してゆっくりとがくぽに頭を下げた。
「……よろしくお願い致します。がくぽ様」
「ああ、こちらこそ……ルカ殿」
がくぽとまともに目を合わせた少女は顔を強ばらせてさっと身を引くときまり悪げに口を開いた。
「あ、あの……わたし。お茶の支度してきます」
さっと少女が身を翻して駆けていく。その背を訝しげに見送るがくぽらの視線を遮るように進み出たミクは再びパンパンと手を叩き微笑むと重苦しかった場の空気が和らいだ。
「はい、はーい! それじゃ後の組は? メイコは? リンは?」
「……丸よ」
ミクの言葉にむっつりと答えるメイコにカイトは手の中の籤を何度も確認して彼女に笑いかけた。
「……丸は私です。よろしく頼むよ、メイコさん」
カイトの笑みを目の当たりにしたメイコはばっと視線を逸らすと赤くなった顔を隠すように身を翻した。
「ルカの手伝いしてくる」
「それじゃあ、君とだね。よろしくね」
「ね~。きんこつりゅうりゅうしてないよ。ホントにぐんじんさん?」
「おきもの、持ってきましょうか? かんざしはどうしましょう~」
にこりと笑みを浮かべるリンの周りを幼い妖人がまとわりつき何事かを言った。
「あは、あはははは~。……気にしないでね」
ぽかりと幼い妖人の頭を叩いてリンはレンに背を向けて二人に囁く。
「……筋骨隆々してなくても軍人さんだよ。着物ももういいからね」
漏れ聞こえる言葉にレンは顔をしかめた。
「頼りなく見えるかもしれないけど、遅れを取ることは無いですよ」
硬い声を出すレンにリンは目をぱちくりさせていたがしばらくすると声に出して笑い出した。
「そんなのっ……あはっ……気にしてるんだ。……ん~、確かに背も同じくらいだしね。でもそんな事気にしないよ?」
ひとしきり笑った後、苦しそうにお腹を押さえてリンはレンに近寄ると背比べをして明るく笑うと背を叩いた。
面食らった顔で少女に背を叩かれるままのレンは痛さに顔をしかめながらも少女を止められないでいた。
台所でルカはかたかたと震える両手を握りしめるとその場に崩れるように座り込んだ。
ルカの『目』それはモノを感知する力。そこにある全ての在るべきモノを捉える。時には過ぎるモノも巡るモノをも見透すこともある。人の本質を見透し、ありのままの姿を映し出し形作る『目』を前に偽ることは出来ない。
そっと目に触れたルカはゆっくりと息を吸うと吐き出した。
男性恐怖症と人間恐怖症のルカはその『目』に映る人の本質の『かたち』を視てその人が信用出来るか出来ないかを判断して生きてきた。
信じられると分かっていても、ルカは怖さに震えが止まらずにがくぽと目が合った瞬間に恐怖にかられ逃げ出した。
深呼吸を繰り返したルカはふぅと息を吐き出すとゆっくりと立ち上がった。
お湯を沸かそうとルカが薬缶を火にかけるとメイコが駆け込んできた。
「……メイコさん?」
「っ!! ————っ!!」
顔を真赤にしたメイコはその場をグルグルと歩き始めた。
「美しいなんて、可憐なんて……お嬢さんって……」
きゃーと赤くなった頬に手を当ててメイコはぶつぶつ呟いていたが不思議そうに見てくるルカに気付き慌てて咳払いをした。
「……けふん。支度手伝うわ」
「……はあ……」
何事もなかったかのようなメイコの態度にルカが曖昧に微笑むと何かに気付いたように恐る恐る口を開いた。
「……あ、あの……気を悪くされてませんか?」
「別に。少し気になっているみたいだけど……」
どうだったかを思い返してメイコは慎重に答えるとルカはほっとした顔を見せた。
「……そうですか。良かった」
「あら……何とか平気みたいね?」
「……あ、はい。何とか。……あ、あの……め、メイコさんたちはどなたと?」
微かに笑みを浮かべたルカの顔をメイコがまじまじと見つめると、彼女は前掛けをいじりそわそわ視線を彷徨わせて誤魔化すようにメイコに話を振った。
「わたしは……ほら、あの……始音カイトさん」
にこやかに笑うカイトを思い出してメイコはぽっと顔を赤く染めてぽつりと呟いた。
「カイトさんか……かっこいい人だったな。……吉兆か。当たってるかも」
「ほほぅ~」
いつの間にか現れたリンがニヤニヤ笑いメ自分の顔を興味深げに見ているのに気付いたメイコは声を荒らげた。
「違う! わたしはただ……共同生活もちょっとは悪くはないかなってだけで……」
「はい、はい。……お湯沸いてるよ? 早く用意して持って行こうよ」
懸命に言い繕うメイコをあしらいリンが準備を手伝う。
「っ! ……リンは、リンはどうなの? 上手くやっていけそうなの!?」
赤い顔したメイコの慌てように笑みを隠せないでいたリンはその言葉にすっと笑みを消して真剣な声を出す。
「別に、普通じゃない?……なにか含んでいそうだけど、面白そうだからね」
「面白そうって……リン、アンタね~」
呆れ顔のメイコが怒るに怒れずに脱力するとリンは笑いながらお茶請けのお菓子に手を伸ばす。
「……リンさん。お出しする前に食べちゃだめですよ?」
お盆を手にしたルカの小言に首を竦めたリンはつまみ食いを諦めて手に取るとルカに続いた。
窓ガラス越しに差し込む夕日が部屋と寝台に腰掛けてうなだれる男と向かい合って立つ男を赤く染める。
窓の向こうをふわふわ明滅して飛行する何かが横切るとそれを見た寝台に腰掛けた男はひくっと身を強ばらせた。
「……おい、カイト。その調子で大丈夫か?」
はあっと息を吐いて向い合って立つ男は腰掛けている男に声をかける。
「ははっ……しかたないだろ、がくぽ。……妖人が怖いなんてそんな事、言えるはずないし、父に知られたら……」
疲れた表情で力なくがくぽに答えていたカイトは父に知られた場合を想定して青い顔で頭を抱えて呻いた。
呻くカイトを見下ろしたがくぽはふいに桜色の髪の少女の姿が妖人に怯えるカイトの姿と重なり目を瞬いた。
「……大丈夫。やれるよ」
自分を見てくるがくぽに向かいカイトは毅然と顔を上げて答えると笑みを浮かべた。
この友人は常に無表情で感情を表に出すことは殆ど無く口数も少ない。その為に周囲から誤解されることも多いが、カイトの知る彼は情に厚い性格でさりげなく細やかな気遣いをする男だ。
「……わかった。何かあったら言え」
微かに引き攣った表情で笑うカイトに一つ頷いて告げたがくぽは部屋を後にした。
規則正しく靴音を響かせ歩くがくぽが角を折れた時、向こうから桜色の髪の少女が姿を現した。
「ひっ! あ、あ……あの……っ!!」
「……ルカ殿? どうされた?」
短い悲鳴を上げたルカにがくぽはぶつかったのかと近寄ると彼女は後ずさり、怯えた表情でがくぽから逃げるように走り去った。
震えて白を通り越して青くなった彼女の表情と、そして……怯えきった彼女の目ががくぽの心を奇妙に騒がせた。
言い訳
気がつけばルカが男性恐怖症になっていたり、レンの性格が悪くなっていたりしてますが書いてる方は楽しかったです。
いつもと違うカイメイ。楽しいですね~。ここまでしっかりカイメイを書いたのは初めてです。
まだ続きます。