小さな杯を満たす透明な薄い金色に、ルークは微かに目を見開く。徳利と呼ぶものを両手に持つ絶対の忠誠を誓う青年、アッシュが注いだ発酵臭のきつい飲み物をおそるおそる口元運ぶ。
ホド風の新年の迎えを昨日からアッシュの手で体験しているルークは、御節や雑煮が並べられた卓を前にあぐらをかいた姿勢で座っていた。
ホドの新年を迎える時の正装という事でアッシュに着せられた着物や、用意された火鉢。畳というイグサを編んだ床に座布団。全てアッシュが年越し前に用意したものだ。
「これは? 」
「米を発酵させて作る酒です、ホドの名産だったものを最近になって出身のものが復活させたとかで……ルーク様はお酒をお召し上がりになりますし、それに合わせて趣向を凝らしてみました」
「ふーん……、結構きついな。ちょっと辛い? いや、でもワインに比べると甘いか? 」
「お口に合いませんでしたか? 」
「いや、うまい」
ホッとした様子で、アッシュが玉子焼きや塩麹で漬けた焼き鳥をルークの皿に取り分けていく、どれも酒に合うもので自然と杯の数が増えていく。
柔らかく髪を撫でられ、ルークの意識が浮上する。酒の飲みすぎで眠り込んでいたようだ。……そんなに気を抜いたのは久しぶりだった。
「あっしゅ? 」
髪を撫でる手が止まり、顔を覗きこまれる。
「申し訳ありません。お休みだったのに……」
「いいよ、別に。それより……寝ちまったんだな俺」
「ええ、色々ございましたから……お疲れだったのでしょう。今夜はゆっくりお休みになってください」
「……お前は? 」
「私……ですか? 」
アッシュの戸惑う雰囲気に気付き、ルークは身体を起す。目の前には自分の対の存在が居る。忠誠を近い家臣としての態度を崩さない。そんな彼に憤りを覚えていると、知っているのだろうか?
「お前は、これまでも色々してきただろう? 大地の降下や、ローレライの解放も。その挙句にこんな凝った趣向を凝らして……、しっかり休んでんのか? 」
「それは大丈夫です。しっかりと……」
「決めた、おまえ。今何かやりたい事あるか? してきていいぞ」
「やりたい事……と申されますと……何でも? 」
「ん? うん、なんだあるのか。じゃあ……」
その先を言葉に出来なかった。
突然布団の上に押し倒され、着物の中に手が滑り込んでくる。
「アッシュ!? 」
「あの、ホドの文化の中に……姫初めというものがありまして……。年始を迎えた二日目からこういった事を始める事を指すそうで……ルーク様がよろしいのなら、是非」
そう言いつつ、彼の手は止まらない。したい事をしろといった手前……拒否するのもおかしく、ルークは結局その後は足腰立たなくなるほど相手をすることになった。