ユリアシティのティアの部屋。その先に続く花畑に、二人は居た。
否、他の面々も顔を揃えていた。
誰もが鎮痛な表情を浮かべて、セレニアの花の中央を見つめていた。青年の腕に抱きしめられて、身重の少女が虚ろに眼差しを振りまく。
「あっしゅ、せれにあ!」
嬉しそうに、楽しそうに。花びらを指で触れて青年に無邪気に話しかける。その瞳の奥は壊れた精神。
「摘むなよ? この花はヴァンの妹のものだ」
「うん! 」
アクゼリュスの後、目覚めたルークは重荷に耐え切れずに壊れてしまった、ベットに腰掛けていたルークはアッシュの姿を見るまで泣き続け、アッシュを見つけた途端に抱きつき離れなかった。
壊れたルークから聞き出した内容は要領得ないものではあったが、少なからずパズルのピースを埋めることには役立った。
曰く、アッシュと一緒に来たと。
曰く、途中でヴァンと一緒に居るものに捕まっていたと。
曰く、腹の子はヴァンのものだと。
愕然と息を飲むメンバーの中でも、アッシュの衝撃は激しいもので、その後はルークを抱きしめたまま誰とも口を利こうとしない。青い顔で、ルークを抱きしめ、髪を撫でる。
「あっしゅ? おなかいたい? 」
花が咲くような無邪気な笑顔を浮かべるルークに、アッシュは首を振る事で否定した。その返事にルークはホッとした表情で子守唄を歌いだす。
狂ってしまいそうなほど、内心は穏やかなものではなかった。
ルークを守るために、過去に戻り、自分を取り殺した。その代償に死を失っても構わなかった。過去に戻る罪が不死の存在になるのならば、ルークはどうなるのだろう?
自分についてきたとは、どういう意味なのだ? 額面どおり受け止めれば……。
過去に戻る際に、彼の音素をつれてきてしまったという事になる。
そうなればどうなる? この少女の姿になった半身も不死の呪いを得たのか? そして、この胎児は? ルークの言うままに師匠の? ヴァンと一緒に居るもの? あの時の狂ったヴァンの哄笑。あの笑い声に混ざっていた異常な歓喜の声。あれはなんだ、ヴァンはなんだ? これからどうなる? ルークは? ルークはどうなる!!!????
がくがくと突然、痙攣を起こしたように震えるアッシュの尋常でない様子に慌てたように周りが騒ぎ出す。
それに気付かずに、アッシュは畏怖に震えた。守りたい大切な半身を抱きしめ、ただ……震えることしか出来なかった。
「ルーク、ここにいろ。離れるな。……絶対に」
いくら生をやり直し、不死になったとしても。超振動が扱えたとしても、無力感を噛み締める事しか出来ず、恐ろしさをどうにかしたくてルークを抱きしめるしか出来なかった。