大晦日の江戸は俄かに活気付き、行きかう人も急ぎ足である。そんな中でも店の仕事を手伝う傍らに抜け出しているアッシュはのんびりとした足取りで歩いていた。
本来ならば、許される事かも知れないが……17という年齢ともあり商い事ばかりでは辟易としてしまう。届け物のを頼まれた先に長兄のアスランに握らされた財布を考えると、どうやら親公認の様子だ。
曲がり角を曲がろうとした瞬間、誰かとぶつかった。
「「うわ!! 」」
転びはしなかった自分と違い、相手の方はそうは行かなかった様子で後ろにひっくり返りそうになったその手を慌てて掴んで引き起こした。
腕の中に上質の香を纏ったあたたかさがぶつかり、驚く。
紅の香りもし、細く柔らかい感触にさらに驚き思わず手を離してしまう。
「うぎゃ!! 」
なんとも色気のない声が出た。
へたり込んで立ち上がらない少女に慌てて膝を付くと、鼻緒が切れてしまったのかな恨みがましい目線を向けられる。
「すまん、立てるか? 今、直す」
少女を立たせ、背中に手を付かせる。そのままの姿勢で手ぬぐいを破り鼻緒の変わりにした。履き心地を確かめさせながらのやり取りの後にやっと立てる様子で彼女は微笑んだ。
「ありがとう」
ほっとした様子で居る彼女の振袖に付いたほこりを無意識に手で払い落していると、その手を自分のものよりもちいさい手が握り締めてくる。
「あの、ぶつかったお詫びにぜんざいでも食べませんか? 」
突然の誘いに思わず頷き返し、ふたりは大晦日の町に消えた。
家に帰り、湯を使った後に部屋に戻ると何故か町で別れたルークと……彼女の父親と名乗るローレライと言う美丈夫が居た。
ぽかんとしていると、家人を呼ばれ……。
「神さま!? 」
母の素っ頓狂な声に、半ば意識が無い父、そして面白そうにこちらを見る兄の姿。
「はい、娘が縁談を嫌がって逃げてしまうので困りきり。今日の大晦日に強引に見合いを用意していたら……帰ってくるなり、そちらにいるアッシュ殿と結婚したいと言い出しまして」
こうして参りました。
そう頭を下げる彼の周りには人間では到底持ち合わせる事の出来ない燐光が溢れ、庭には彼の式と言うもの達の気配で溢れている。
神……と言うのは本当らしい。
「そんな、でも、この子は……」
「俺は別に……」
「「「アッシュ!!? 」」」
おろおろとする家族を尻目に了承を伝えると、あからさまにローレライはホッした様子だった。
こうして、アッシュはルーク姫というなの姫神の婿入りする事になった。