「がくぽ!! 待って!!」
ルカは奥へと歩いていく恋人を追って、駆け出した。白昼夢の様な光景だと言うのに走り続けるうちに息があがる。走り通しだと言うのに一向に追いつけない。
「がくぽ!!」
いつの間にかルカのがくぽを求める声は悲鳴の様になっていた。
「わ、私。貴方にまだ!」
目の前の扉を開け、狭い日本建築特有の廊下を通り抜け、急な階段を駆け上がる。
再び階段に差し掛かった時、何かに見られているような感覚に陥り、ルカはどうにも出来ないような不安感に襲われる。
「がくぽ!」
恋人を呼び、階段の向こうの扉に消えた姿に追いすがる。一息に階段を駆け下り、扉を開ける。
そこは……。
「な、中庭?」
雪の降る中庭だった。走り通しで上がった息を整えながら冷えた空気に体が震えてくる。
ふと、向こう側に大きな扉がある事に気がついた。
その扉を開けて、がくぽが中に入っていく。
「! がくぽ!!」
中庭を大きく迂回する造りに内心苛立ちながら、ルカはがくぽに続いて扉を潜った。
そこは不思議な空間だった。中庭の隣に大きな社造りの建物に続く参道のような空間になっていた。しかし、ルカはそんなことにまで気が回らなかった。
それは、がくぽがその社に消えていくところだったから。
「!」
ルカは詰めていた息を吐き出すと、その後を追いかけた。
「がくぽぉ!!」
涙が眦にうっすらと滲む。
あいたい!!
扉を開け、社に入った筈なのに。そこは狭い廊下だった。暖簾のように色鮮やかな藍染が垂れ下がっている。
「がくぽ?」
かれはどこ?
狭い廊下に足を踏み出そうした時、前方から悲哀に満ちた女性の泣き声が聞こえた。目を凝らすと暖簾の間から上半身を露出させた……しかも、全身に刺青をいれた女性が現れた。
「ひぃ!!?」
悲鳴を上げて、その場に立ち尽くす。逃げ出したくとも足が縫い付けられたように自由にならない。
「あ、あ、こ、来ないで」
彼女が腕を伸ばしてくる。それは耐え難い恐怖だった。
その手はルカの体を抱きしめる様に動き……。
気絶した訳でもないのに、いつの間にかルカは冷たい地面に仰向けで横たわっていた。衣服はなに1つ身に着けておらず、手も足も大きく広げた状態で体は動かなかった。
(何が、あったの?)
戸惑うルカの周りに、いつの間にか巫女装束の少女達が取り囲んでいた。
(え?)
度重なる異常な事態に、ルカの思考がついて行かない。巫女の少女達が手に手に持った木の杭をルカの手や足の上に振りおろす。
そこから滲むように白い肌を埋め尽くす青い刺青にルカは目を見開いた。
(やめて!!!)