大分冷えてきました。
おかげで手足も冷え冷えです。
体を温めるんだとしょうがをとっていますが効いてるのかな~。という感じです。
今回はボカロです。
暗く、重く、救いがない話の一応ぽルカです。
貴方に罪があるのなら
地下へと続く階段の入り口にカイトはランプを手に立っている。暗く沈む内部を見るカイトの顔には表情が無く、まるで人形の様である。
暗く、澱んだ闇がカイトの持つランプの光を呑み込む様だ。一瞬、湿った冷たい風が中から起こり、カイトの首筋を撫で上げた。僅かに身を竦ませカイトは足を踏み入れた。
ランプの明かりはランプを持つカイトの手と足元の段差を僅かに照らすのが限度であり、滑りやすい階段では一瞬の油断も出来ぬ状況だ。
カイトは闇の中を一歩、一歩、慎重につま先で探っては下りる過程を繰り返す。
カイトの行く手に光が漏れる扉がある。漸く目的地に辿り着く。息を調え、強張った体をほぐす。
刹那、奥から甲高い笑い声が響いた。
弾かれたように顔を上げ、カイトは扉に駆けて行く。カイトはその声を知っているだ。いや正確には知っていた。
扉を開けようとしてカイトは扉を開けることができなかった。
ノブを掴む手が虚しく下ろされる。カイトの顔は情け無いものだった——王国の盾、無敗の将と謳われるカイトの顔は今は何かを堪える様に歪み、瞳に薄い水膜が張っていた。情け無く、無様な姿を晒しながらカイトはただ喘いだ。
この先に行けば、全てが明らかになる。それと同時にカイトの大切なモノが今度こそ、永久に喪う事になる。
それがわかるからカイトは開けられない。
耳障りに響く女の笑い声。
カイトの知る彼女はそんな笑い方など——しない。
喘ぎながらカイトは笑い声から逃れるように耳を塞ぐ。きつく耳を押さつけ扉に背を向ける。……苦いものがこみ上げる。
このまま……地上に戻り全てを部下に任せてしまえば……楽になる。
そう……逃げてしまえばいい。
脳裏を掠めた誘惑にカイトは瞳を見開いた。唇をいや、全身を震わせてその場に崩折れる。
カイトは自分が弱い事を知っていた。優しすぎるからだ。そんな自分を理解し、何時も呆れながらも力を貸してくれた友を思い出す。この場に居てくれたらと……
カイトが盾ならば彼は剣、カイトが無敗の将ならば彼は必勝の将、常に背中を任せていた彼ならばと、しかしそれは叶わない事だ。カイトの推測が正しければ……この中に居るのは——
現実から目を背け続ける事はカイトには出来なかった。
生き人形、そう呼ばれるモノがある。死者が蘇ったかのような姿で自在に動き、話す人形だ。いつの間にか貴族の間に流行り、姿を表した人形。そして、それに比例するかのように姿を消した者たちがいる。その者たちは変わり果てた姿で見つかった。
カイトの前に浮かぶ女性達。その誰もが——何処かが欠けている。カイトを虚ろの眼窩で見つめ、助けを求めるように無くした手を伸ばす彼女たちを振り切ることなど、カイトには出来るはずが無いのだ。
部下に任せたとしても、彼ならば——カイト以外、誰も歯が立たないことも分かり切っている。
だからこそ、カイトは部下に先駆け此処に来たのだ。全てを負うために……
意識して呼吸を整え、萎える足に力を込めてカイトは立ち上がる。そして、扉を開けた。
甲高い声が途切れた。
赤いモノが舞った。
それは一瞬の出来事だった。
長い紫色の髪の男ががくぽが、右手に持つ刀で笑う桜色の髪の女を切った。いや、切り捨てた。
がくぽはこちらを振り向きもせずに、倒れたまま動かない女の側に刀を投げ捨てる。そして向き直る。
「——カイトか。遅かったな」
「がくぽ、その女性は……ルカ様なのか?」
平坦な声、能面の様な顔をしているがくぽの姿はカイトの知る彼では無かった。自分の知る彼はルカ姫を愛していた。そのがくぽが——ルカ姫に瓜二つの桜色の髪の女を切り捨てた。それが信じられなかった。
それが出来るならば、こんな事を——殺人を犯すはずがないのに。
欠けた死体の被害者が若い女性であるということ。
がくぽとカイトはある事件のおりに生き人形についての書物を押収したその存在はカイトとがくぽ。後は高官の数人しか知らない。
そして、姫が永眠る聖廟から姫の遺体が持ち去られたと報告を受けた彼が慌てて書物を確認したがこれも持ち去られていたという事実。
この時、初めてカイトはがくぽが犯人であると確信した。そして、今この場に彼は一人で来たのだ。
「……違うな。成功例はあっても結局……」
確かに生き人形といわれるモノをカイトも見たことはある。それらは彼の言う成功例なのだろう。しかし姫自身を使って造られた人形は失敗作という事実。カイトはさりげなく剣の柄に手をかける。がくぽの行動によっては何時でも抜けるようにと。
「殺すのか?」
カイトの剣を見たがくぽが抑揚のない声で聞く。
「出頭してくれるかい?」
震えそうになる声で無理におどけて見せるカイトにがくぽは薄く笑った。
「いや。少し待ってくれ……自分で始末は付けるさ」
奥に向かうがくぽをカイトは黙って見送る。彼が始末を付けるというならきちんと始末を付ける事を知っているからだ。
突然、がくぽの体が傾いだ。
目前に広がる桜色。
がくぽに桜色の髪の女が捨てられていた刀で体当たりをするように差し込んでいた。
倒れるがくぽに駆け寄ろうとしたカイトを制するように血塗れの女が立つ。
剣に手をかけるカイトの目と女の目が合う。強い意志が宿る目だった。
その目をカイトは知っていた。立ち尽くす彼に女が、いやルカ姫が命じる。
全てを燃やせと。それに従うようにカイトは動く。
ランプのオイルをぶちまけて紙を浸す。勢いを増していく火の熱から逃れるように階段に足を向ける。
階段に足をかけてカイトは振り返る。そして直ぐに駆け上がっていく。
室内を舐める炎と熱ががくぽを苛む。傍らに膝を付く失敗作に懸命に手を伸ばす。
「……ルカ様っ」
何も答えずにルカは震えるがくぽの手を取る。微かに腕に力がこもり引き寄せられる。
がくぽはルカの腰に顔を押し付けるようにきつく抱く。
ルカが口を開く。
旋律が染み渡る。炎が旋律を呑み更に勢いを増す。
それでもがくぽの耳にはルカの歌が響いていた。旋律が体が焼ける痛みよりも優しくがくぽの瞼を閉ざしていく。
「ずっと……貴方の事を……」
好きでした。最後は声にもならずに消えていく。
微かにがくぽを抱くルカに力がこもる。
許されない事だとルカは知っていた。
それでも、こんな事になるのなら……いや、こんな事がなければ何も伝えることも出来なかったのだろう。
一筋の涙がルカの頬を伝う。
熱が彼女を焼いていく。永眠るがくぽの頬を撫でてルカは目を閉じて歌う。
響く旋律に煽られて炎が上へと伸び上がっていく。
全てを消し去るために……。
後書き
意味不明です。反省しています。ただルカを失い狂っているがくぽさんを書きたかったようです。
間に何があったのかというのも考えてはいますけど……まあ、おいおい。