「失礼します。私はマルクト軍の軍医を務めております。診察が必要なのはそちらのお子さんですか?」
軍医が恐る恐ると言った様子でフードの青年に話しかける。この青年はいくら依頼してもフードを外さないらしく、海賊の残党が子供を盾に逃げ延びようとしているかもしれないとなったのだ。ジェイドは余り目立たないようにドアの近くで気配を殺して立つことにした。
「そうです、さっきから熱が高くて……。ルー、医者が来たからフードから手を離してくれ」
青年は腰を浮かせ、軍医を見る。フードを着込んだままだと、平素よりも視界が狭くなるようで、ジェイドには気づいていないようだ。
しかし、先ほどの声は……。
「いやぁ、にいさまぁ」
青年が指を解こうと小さな手に大きな、剣士の手を重ねるとむずかるように拒否の声が上がる。その時になってやっとジェイドは子供の顔を確認できた。先ほどまでは額よりも大きなタオルで頭を冷やしていた為解らなかったが。動いた事により露わになった少年は、朱金の髪に緑の目をしていた。
「ルーク……?」
掠れた声に気づいたのか、青年がこちらに視線をよこす。フードから零れ落ちた銀糸の髪が、音素灯に反射し、きらきらと煌いた。
「ジェイド!!」
勢い良く立ち上がった為、子供に握り締められていたフードは後ろへと引かれ、隠れていた青年の顔を露わにする。
色素のない真っ白な肌に、銀糸の髪。目の奥の血管が透けて赤く見える瞳。
生きた人形のような整った美がそこにはあった。
「貴方は……、アッシュ? なんですか……?」
(そんな馬鹿な)
確かにアッシュと同じ顔立ちに同じ声質を持っている。しかし、記憶の中の彼は間違いなく、深紅の髪に深い緑のキムラスカ王家の象徴を宿していた。
いま、ジェイドの目の前にたって、切迫した表情をしている人物は……アルビノ。生まれつき色素を有さない体質にしか見えない。
こんな事は理論上絶対に起こらない!!!!
「ジェイド! 助けてくれ、ルーが……ルークがどんどん弱っていって、ローレライに聞こうにも……返事が来ないんだ。俺の音素を注いでも上手く行かない。このままじゃ、死んじまう」
だから、助けて。そう悲痛な声で訴えてくる彼、アッシュをただジェイドは見返していた。
あとがき
この話のコンセプトは兄様とルーに呼ばせたいです。