片割れの眠るベットから素足を出すと流石にひやりとした冷気が足をなめ上げてくる。
起こさないように慎重に部屋を横切り、うすく扉を開けた。
其処には、甘い砂糖菓子が詰まった袋が落ちていた。
その砂糖菓子はこの小さな町の中では指折りの名店のもので、味と美しい見た目から女性に受けていた。しかし、男には甘すぎるきらいがある。拾いあげ、それを音素灯に透かしてみる。花びらを模ったピンクの飴は意匠を凝らした手の込んだ品だ。
(今度、ルークに買ってやるか)
甘いものが好きなルークは、貴族の暮らしもあり、目も舌も肥えている。きっと屋敷勤めのパティシエやショコラティエが作ったもの以外を余り口にした事もないだろうから……。
其処まで考えてアッシュは苦笑する。憎しみが消え、代わりに溢れ出した愛しさはとどまる事をしらないのか、徐々に恋人に対し甘くなって来ている。
これでは、彼を甘やかす事しかしない彼の元使用人のようではないか。
ルークに触れ、想い想われる。そんなささやかな幸福はいずれ終わる。大爆発が訪れ、自分は愛しい彼に取り込まれるのだ。
それまでに、やれることは全てやってやりたい。どんなわがままでも構わない。
少しでも、己の死が……幼い無垢な心に傷をつけない為にも。
ゆっくりとした動作で扉を閉め、ゴミ箱の中に落ちて汚くなった菓子を捨てる。先ほどの情事を見ていた幼馴染。
青褪めた顔に信じられないと悲憤を露わに、腕の中のルークを射殺さんばかりに睨みつけいてた。
どうして彼女は昔のままでいられると思っているのか。人は成長し良くも悪くもかわる。ダアトで過ごしてきたアッシュはもう、昔のままの純粋さを取り戻せなくなっていた。
「あっしゅ?」
ベットの中で寝ぼけた声を出しながらルークが身体を起こす。白い肌に散った狂愛の痕が昨日の行為の激しさを物語っている。
「起こしてしまったか?ルーク」
ベットに腰掛け、頬を撫ぜるとルークはうっとりとその目を閉じた。
「ん、アッシュが居なかったから……」
もたれかかる様に身を寄せてくるルークを抱きしめ、アッシュは目を閉じる。抱きしめ返してきた半身を離しがたく、夜明けが近い事を苦々しく思いながらぬくもりを分け合う。
殺伐とした生活の中で、この存在だけが自分を繋ぎとめてくれているのだ。
アッシュは原作通り大爆発を誤解しています。
ルークは何も知りません。