リンは呆然と屋敷の中に作られた池の上の橋に立ち尽くしていた。豪勢な造りの屋敷には人口の池があり、その上にかけられた橋は頑強なもので、人一人が歩くくらいならばびくともしない。
池の上に伸びる橋、その先には小さな出入り口が設けられている。その小さな入り口を先程通り抜けて行ったのは……年の離れた兄の姿だった。
兄……レンは日本史を専攻しており、趣味として日本建築も調べていた。自分と比べて学部での成績も良く、穏やかで人好きする性格で人望も厚かった。
一昨年の夏、レンの恩師である日本史の学者が助手を連れた取材の間に失踪した。兄は、彼の行方を求めて探索に向かい、連絡が取れなくなってしまった。
兄を追い。リンは兄が囚われてた呪いの館に足を踏み入れた。
縄を使い儀式を行い続け、その儀式が失敗し……訪れるもの全てを縄により四肢を、そして首を縛り引きちぎられる死の館。怨霊、縄の巫女の屋敷へと。
命がけで呪いを解き放ったリンは、レンを取り戻すことは出来なかった。
レンは屋敷に残り……。
助けたかった兄が、目の前で扉を潜りぬけて……。
瞬間、リンは橋を渡り扉を抜け、廊下を駆け出した。
廊下の先の扉を押し開くと……長く伸びた儀式の間へと続く廊下を、兄・レンがゆっくりと歩き進んでいく所で……。
「兄さん!! 」
幼い頃に母を失い、父もリンの生まれる前に行方知れずとなった。そんな家庭において、兄の存在は大きかった。
「待って!! 私も! 」
屋敷に残りたかった。
「一緒にいさせてぇ!!」
離れているのは怖い。
悲痛な叫びを上げながら、リンはわき目も振らずに兄へと走る、其の後を、ルカは必死に追いかけていた。
夢の中でリンが現れる様になり、そのシンクロした夢に不安と疑問を持っていた。夢の中で、ルカとリンは共鳴しあい同化していたのだろう。
兄を求めたリンと、恋人を求めたルカの間に隔たりができ、別れた魂は間逆の行動を起す、夢の呪いで囚われようとする魂と、それを止めようとする魂。
ルカは、リンに追いつくことが出来なかった……。