夢の中でいつも誰かを探している。
髪を撫でる感触に、目覚めを促される。最近では誰か知らない人を探す夢で目を覚ますのが主だった。
ぼんやりと歪む視界は寝起きだからでは無い。
目元を拭う冷えた誰かの指先で、其の事に気付いた。ずっとこの夢を見ていたのに、泣いている事に気付かないでいた。……気付かない様にしていた。
涙は暫らく止まらなくて、ベットに横たわったまま涙が出きるまで泣いてみた。雨音しかしない室内で、泣いた。
ベットを軋ませて、掌の主が湿った体が覆いかぶさってくる。
何か考えるよりも先に、体が動いていた。
彼の背中に腕を回し、しがみ付く。ベットと背中の間に割り込んできた腕が抱きしめ返してきた事に、止まりかけた涙が再び流れた。
雨の匂いが混じる体臭を吸い込み、濡れた肩に顔を埋める。
安堵感が押し寄せ、体の力が抜けそうになる。涙は以前止まらない。彼の腕から力が抜けて、体を離そうとするのが嫌で慌ててしがみ付くと、安心させるかのように背中を軽く叩かれる。
少しだけ離れた体に不満を覚えるが、彼……アッシュの顔がまじかに見えた。少し、不安げに見えるアッシュの顔。
眉間に皺を寄せいるから、不機嫌そうに見える。
もう一度、髪を撫でられ、目元にキスをされる。伝い落ちていた涙を吸い取り、額や頬にキスを降らせる。一度、深く唇を重ね。視線を合わせ、微笑んだアッシュの顔が不安げにも見えることに、其の時気付いた。
「アッシュ? 」
「俺が、わかるか? 」
呼びかけに、少しだけ緊張が和らいだ。
「覚えてない。けど、知ってる……と思う」
「知ってる? 」
「うん、知ってる。探してた。会いたかった、んだと思う。……あいたかった……」
覚えていないのに、会いたかった。
声が聴きたかった。
側に居たかった。
謝りたかった。
「アッシュ。ごめんな。ひどい事言って、ごめんな」
思い出せないのに、時間が立てばたつほどに彼に会いたかった。
彼が恋しかった。
恋焦がれて、苦しかった。一緒に居られない事が悲しくて気力も湧かなくて……。
わからない。思い出せない、でも、彼を失いたくない。
「……アッシュ、だいすき」
「ルーク」
抱きしめられる、愛しくていとおしくてしょうがないと言わんばかりに触れる手の感触。
「このまま、側に居て」
バチカルを背後に、アッシュは馬を駆る。
馬の鬣に掴まる半身が、体を捻ってこちらを見てくる。
「ルーク、しっかり掴まってろ」
「うん」
記憶は結局戻らなかった。それでも、アッシュと行くことを選んだ。
「父上たちが、許してくれてよかったな」
「うん!」
思い出せないかもしれない、思い出すかも知れない。それは解らないけれど……。
「「行こう」」