雨音に目を覚ましたルークはベットの上で半身を起した。唐突に、雨音が大きくなって聞こえ、それが誤りでないことを確信し突然の来訪者に目を見張る。
「アッシュ? 」
雨に濡れ、全身から雨の湿った香りを纏わせた被験者の姿に驚き、布団を跳ね上げて駆け寄った。
「ずぶ濡れじゃん、何してんだよ! 」
慌ててベットから飛び出し、寝る前に髪を拭くのに使っていたタオルをベットサイドから手に取る。一気に間を詰めてタオルを差し出した。アッシュはそんなルークに一切の動揺を見せずに、タオルに視線を落し……暫し何事か考えて受け取った。
「なんか様……」
言いかけて辞める。
無言で差し出された拳の下にルークは素直に掌を出した。ぽとりと落とされたのは鈍く光る鉱石があしらわれたピアス。
「なにこれ」
「つけろ」
それだけ言い残して、アッシュはまた雨の中へ姿を消してしまった。
「あ、アッシュ!! 」
慌てて引き止めようとしたが、暗闇の中に溶け込んだ姿は見つからなかった。
ベットに戻り、ピアスを掌の上に乗せて転がす。暗い室内ではその色彩を把握する事は出来なかった。
それから、一週間ほどたった新月の夜に、アッシュが再び尋ねてきた。
風呂上りに部屋に戻ると(大浴場のある宿の為に、部屋を出ていたのだ) アッシュが宿の主人に身内と伝えて入り込んでいた。部屋は暗く、何故か明かりをつけていない状態で、窓の側でアッシュが立ち尽くし、ルークの帰りを待っていた。
「アッシュ……」
近寄ろうと足を出そうとした時、アッシュは無言でテーブルの上を示した。
テーブルの上には小さな小瓶。其の中には小さな白いものが納まっている。
「え? なんだよ」
「飲め」
それだけを伝え、アッシュは二階の窓から外に飛び出していった。
また引き留められなかった被験者に舌打ちをし、ルークは無意識に耳のピアスを指で触れた。
小瓶の錠剤、ピアス。
くれる物の系統もばらばらで何が目的かも解らない。
「体に悪いもんなんか、渡してこないよな……」
何故か、誰にも伝える気がしなかった。
瘴気の中和 音素乖離 ローレライの解放
音素帯でのまどろみ。
誰かの声。
段々強くなっていった、アッシュへの恋情。
纏まらない思考。
アッシュの掌の感触。
続く