アニスはモースに渡す報告書を握り締め、人気の無い方へと足を向けた。もくもくと足を進める。
正直な話、今回の報告にこれといった変化は無い。アッシュがおかしくなったルークを連れて行方をくらませ、ガイが後を追うためにタルタロスで魔界を脱出してから別行動を取ったくらいだ。
このケテルブルクにもタルタロスの修理の名目で寄ったのだ。
イオンの体調が気がかりだが、今は温かいホテルで休んでいる。
(あのレプリカ……どうなるんだろう)
モースは血眼になってアッシュを探しているらしい。本来ならば死ななくてはいけないキムラスカ王家の男子。
本物のルーク。
レプリカが女となった時点で、預言の生贄は彼だ。モースはローレライ教の信者として、預言の為に彼を殺すのだろう。……もし、邪魔になるのなら、心を壊し自閉したあのレプリカも。
そこまで考え、頭を振る。歩く早さを早めつつ足早に進む。
(考えるな)
そう、自分のことで手一杯なのだ、余計な事を考えても……負債は減らない。
彼女が哀れとか、罪から逃げたとか……思うだけの資格すら持ち合わせていないくせに。
「何様だ」
吐き捨てる。
胸中に広がる苦々しさ。泣き出してしまいたい。いっそ。
目の前に突然、気配が現れアニスは足を止める。かなり近い。戦場慣れしているアニスが、その存在に気付かなった。
歪なぬいぐるみを今日は持っていない。変わりに食料が入った大きな紙袋を持ったアリエッタと……深紅の髪の美貌の青年が並んで立っていた。彼はアリエッタ以上の量の荷物を軽々と持ち、感情の見えない様でこちらを見てくる。
「あ、あんた達……「アニス、イオン様に伝えて、アリエッタ……全部知りました。でも後追いなんてしません。暫らくはアッシュと行きますって」
「なに言ってんの!? 訳わかんないんですけど!? 」
「解らないなら、それまでだ。何時までも伝書鳩でいるんだな。アニス・タトリン」
息を飲んだ、血の気が引く。一瞬だけ向けられたのは殺気だ。
活を入れるために深呼吸をし目を開くと、二人はいなくなっていた。
つづく